少子高齢化や財政赤字などの経済問題が人文社会科学に与える影響はとても大きいと言えます。和歌山大学経済学部は4月に改組します。財務省そして文部科学省の圧力の下に改組を実行しようとした訳ではないのですが、経済問題の圧力は背景に存在しているかもしれません。

 したがって、いま、人文社会科学が世の中から求められているのは、経済発展への直接的もしくは間接的貢献と言ってよいでしょう。そして、全国の大学にある社会科学系学部に求められているのは、一つの専門性に限定されずに複数の専門性を有し、主体的に学び修める人材の輩出だと思います。

 社会科学が社会から受ける圧力にこたえるため、私も経済学の歴史を研究する者として、どのような貢献が可能かを考えてみました。

 まず、前提を置きました。経済発展は結果として訪れるかもしれないのであって、「良い社会」の構築に経済学も貢献しなければならない。そして「良い社会」とは人々がたとえ失敗しても前向きに生きていけ、そのような人々を支える制度が存在する社会であるという前提です。

 過去の経済学者がすべてこの前提に立ったわけではありません。一方には、経済学の「科学」性を重要視して、社会には普遍的な原理が存在し、その原理を追求する場合、物理学などで個別の物質を分解しなくてもその運動法則が分かるのと同じで、個別の人間や人間社会は重要ではないと考える学者がいました。

 他方には、経済学を有機的で複雑的なものであり、経済現象について単純な原理では説明がつかないと考える経済学者もいました。この場合、個別の人間や人間社会は常に研究対象として重要なものになります。

 もちろん両方の考え方が重要なのですが、「良い社会」を構築するために過去の経済学の知恵が利用できるとすれば、複雑な経済現象について人間や人間社会を分析し、適切な制度を構築しようとした経済学者の考え方を、まずはひもとくことが大切なのかもしれません。

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 和歌山大学とニュース和歌山は毎月原則第1土曜、和歌山市西高松の松下会館で土曜講座を共催。次回は2月6日(土)午後2時。講師は和歌山大学「教養の森」センターの菅原真弓准教授で、演題は「浮世絵版画と近代日本〜近代浮世絵の『メディア性』」です。

(ニュース和歌山2016年1月30日号掲載)