本紙連載をまとめた『城下町の風景Ⅱ』、手にとって頂けたでしょうか。2009年の『城下町の風景』、12年の『和歌浦の風景』に続く「カラーでよむ『紀伊国名所図会』」シリーズの3冊目です。「刊行を待っていた」との声も頂いています。

 もとになる「紀伊国名所図会」は1812年発行です。紀州藩の商用を担った帯屋七代目の高市志友が企画編集した地誌、当時の観光ガイドです。全部で22冊に及び、和歌山の景勝地、名所が絵図で紹介されています。

 『城下町の風景』は、この中から、城下町が描かれた絵を選び、絵本などを手がける和歌山市の芝田浩子さんが彩色、和歌山市立博物館の額田雅裕館長が絵図を解説しています。第一弾の刊行後、彩られた城下町の絵は、市の観光案内や歴史館の展示に活用され、城下町和歌山の発信の一翼を担っています。

 今回の『城下町の風景Ⅱ』も私たちが慣れ親しむ場所のかつての姿が楽しめます。広瀬の大橋、新通、地蔵の辻、田井ノ瀬…。中でも菓子所、駿河屋の絵は、芝田さんが「特に力が入った」と語る一枚です。紀州藩のお抱え絵師、岩瀬広隆が、ち密に書き込んだ菓子作りの工程を鮮やかに塗り分けており、時を超えた素晴らしい合作と言えます。菓子作りの活気というか、熱気までが伝わってきます。

 庶民の姿がユーモラスに描かれているのも魅力です。今回も、もの売り、床屋に座る人、大道芸人、飛ばされた傘を追う子どもと、暮らしの中の庶民の表情が活写されています。くすりと笑え、絵のどこかに自分もいるのでは…と親しみを覚えます。

 和歌山市の中心市街地は、戦国時代末期から江戸時代に整備された城下町の町割が今なお残っており、名所図会の絵は、今の和歌山の風景と輪郭が重なります。ここに色を塗ることで、史料はよりポピュラーになり、多くの人に受け入れられ、再び動き出しました。一枚一枚めくると、時代とともに埋もれた城下町の風情が再発見でき、新たな個性として感じられます。

 和歌山市では、城下町の歴史、文化を生かしたまちづくりを検討するプロジェクトチームが立ち上がり、本書を使って、まち歩きをしてくれる市民団体もあります。未来に向け、街を豊かに育もうと思えば、歴史を抜きにすることはできません。未来の街をみすえる時、たえず立ち返るべき足場のような一冊になると信じています。 (髙垣)

(ニュース和歌山2016年5月28日号掲載)