現代社会と人文社会科学

 和歌山は多くの災害に遭遇してきた地域です。富士山大噴火との関連が指摘される宝永地震(1707年)、「稲むらの火」で有名な安政南海地震(1854年)といった地震や津波だけでなく、紀州大水害(1953年)のように河川のはん濫や土石流などの被害も発生しています。

 このような災害に直面した先人は、私たちに何を伝えようとしたのでしょうか。例えば宝永地震の後、家財を心配して津波からの避難が遅れた人が被害に遭い、大地震の後は覚悟すべきだと書かれた資料が残されています。那智勝浦町には、東南海地震(1944年)の6年後に石碑が建てられ、年を経て記憶が薄れることを懸念したという建碑の目的が記されています。

 一方、「稲むらの火」が教科書に再掲載されたというニュースを耳にした人もいるでしょう。戦前の教科書の物語に比べ、主人公のモデル・濱口梧陵が、防災のみならず被災者の雇用創出の意味をも含めて莫大な資産を投じたという、堤防工事の史実が強調された内容になっています。実際に約100年後の東南海・南海地震の際に、この堤防が役割を果たしたと考えられています。先人の努力が、後の人びとを救ったのです。

 先人が残した資料や功績から学ぶと同時に、私たちが未来に伝えねばならないものを考える必要もあるでしょう。紀伊半島大水害(2011年)において、和大の教員や市民ボランティアなどで結成された「歴史資料保全ネット・わかやま」は、泥水で汚れた古文書や写真アルバムなどの修復活動を行いました。また今年2月には、博物館や市町村教育委員会など75機関が参加した「和歌山県博物館施設等災害対策連絡会議」が発足し、先進的な取り組みとして注目されています。日ごろから防災意識を高めるとともに、大切な故郷の歴史をどう未来に継承していくべきか、一緒に考えていきましょう。

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 和大とニュース和歌山は毎月原則第1土曜に和歌山市西高松の松下会館で土曜講座を共催。次回は5月2日(土)午後2時。講師は教育学部の阿部英之助さんで、演題は「フィールドワークを通した地域連携教育の可能性」です。

 (ニュース和歌山2015年4月25日号より)