4月18日に本紙創刊50年を記念する『ニュース和歌山が伝えた半世紀』を刊行しました。お陰さまで、「歩んできた時代を確認する」「今の私たちと街のあり方を自問したくなる」「社会科の副読本になりそう」などと感想を頂いています。

 同書は、1964年から2014年までの本紙の記事から、その時代を物語るものを1本選び、改めて記者が取材した連載がもとになっています。巻頭特集は、坂本冬美さんら地元出身の著名人6人のインタビュー。著名だから選んだのではありません。各氏、大きく花を開かせる前の姿が過去の本紙記事にあり、そこからお話をうかがっています。デビュー2年目の坂本さんや元体操選手の田中理恵さんの中学校時代をとらえた記事は、地道に地域の人の頑張りを追う本紙の面目躍如です。

 和歌山の古い写真には「懐かしよ」との声を頂きます。水軒の浜、市電、丸正の屋上、昔の三年坂と思わずまだ小さかった子どもたちの手を引いていたころを思い出される方も多いかも知れません。各年ごとにまとめた小さな記事は、日々の忙しさでしまい込んだ記憶を刺激します。そこにいた自分と家族だけでなく、親しかった知人、友人の姿がよみがえれば幸いです。

 懐かしさにとどまりません。本の中で1つのトピック、例えば商業施設の展開、市民活動、和歌浦など場所でもいいですから、1点に注目し関連する記事を拾ってみてください。和歌山の様々な歴史のラインが見えてきます。ぶらくり丁など商業地の話を見ていくと、地元商店街の発展→県外スーパー、百貨店の進出→郊外商業施設の発展→中心市街地空洞化→市民によるまちづくりの試みと流れが見えます。和歌浦を追うと、1960年代はGWに向け旅館が満室と景気のいい話、その後の衰退、ロープウェーの廃止、景観をめぐる行政と住民の対立、そして行政が景観条例で風景を守ろうとする…。目に見える動きだけでなく、価値観の転換、そして、今後はどうなるのだろうとの問いが自然と生じます。

 故郷はどこにある。私は、地域の表情、出来事、そして個人的な思い出を世代を超え語り合う中にあると考えています。『ニュース和歌山が伝えた半世紀』はそんなひとときの下敷きになるよう意図しています。ぜひ一家に1冊、和歌山の話に花を咲かせ、子どもたちにその魅力を 伝えてください。(髙垣)

(ニュース和歌山2015年5月9日号掲載)