先日、アラブ音楽のコンサートへ行った。弦楽器ウードと打楽器ダルブッカのデュオ。余りなじみのない音階の上、10拍子が多い。それでも聴くうちに、どことなく落ち着くから不思議だ▼アラブ音楽の独自性には、例えば、ドとレの間を9分割する細かな音程が大きく影響する。西欧音楽だと、この間はドの♯だけで、ほかの音を出すと「音を外した」となる。ウード奏者は「エジプトを旅行した知人が『向こうの音楽家は音痴ばかり』と言ってました。文化を知らず、自分の常識を当てはめた訳で、失礼な話」と教えてくれた▼さらに、より細かい音があるので、長調、短調と単純に分けられない表現ができる。「苦しいけど、楽しい」「嬉しいけど、どこか浮かない」といった微妙な感情。確かに、「一点の曇りもない楽しさ」なんてことは、そうはない。微妙な感情の方が自然なのだ▼音楽を通し、こんな感情表現に触れたことで、「どことなく落ちついた」のかも。一面的な常識の枠が取り払われる体験だった。(小倉)

(ニュース和歌山2015年5月9日号掲載)