現代社会と人文社会科学

 近年、ノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン教授の研究に代表されるように、多数の幼児教育研究の成果から、就学前教育が子どもの人生に大きな影響を与えることが分かっています。

 幼稚園や保育所などの就学前教育を受けた子どもは、受けていない子どもに比べ、40歳になった時点での年収、持ち家率は高く、離婚率や生活保護等に頼る率は低いというデータや、質の高い保育を受けた子どもは小学校での成績もよいというデータなど、近年、国際的な研究結果が多数出ています。そして、政府の支出を減らし、税収を増やすという点から、子どもの人生のみならず、地域の経済によい影響があるとして、幼児教育の国家予算を数倍にまで引き上げる国もでてきました。

 ところで、ここでの就学前教育や幼児教育は、早期教育と誤解されてしまうことがありますが、そうではありません。まだ小さくて興味のない子どもに、無理に読み書きや計算を覚えさせるのは、かえって逆効果で、子どもの興味は広がりません。子どもは、自ら楽しいと思う遊びを通してなら、様々なことを自分から学んでいきます。

 アートは子どもにとって、自分の思いを表し、考えを深める方法で、人とつながる方法でもあります。砂場遊びを例にすると、山をつくって水を流せば川になり、器に砂をもってごちそう、水をためて足をつけて足湯をつくることも。造形は小さな子どもが地域や世界を学ぶ方法です。この造形を通しての学びが、子どもが小学校、中学校へと続き、やがては、地域を知り、文化の継承になります。

 小さな子どもであっても将来の担い手となる一人の人間として尊重し、みんなで大事にしたいものです。和歌山の豊かな自然環境の中でこそ、大切にしたい育ち、そして、和歌山だからこそできる教育を、市民のみなさんに考えていただければ幸いです。

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 和歌山大学とニュース和歌山は毎月原則第1土曜、和歌山市西高松の松下会館で土曜講座を共催しています。次回は7月4日(土)午後2時。講師は経済学部の森口佳樹教授で、演題は「『憲法現場』の変化とその評価」です。

(ニュース和歌山2015年6月27日号掲載)