現代社会と人文社会科学

 現行憲法が制定されて70年近く経過したが、その評価は別として憲法改正は1度も行われていない。しかし社会情勢など、我々をめぐる四囲の状況が変化する中で、憲法問題に直面する「憲法現場」においてどのような変化があり、その評価をどのように判断するのかを検討したい。

 人権に関する議論として、国家公務員の政治的活動の自由、プライバシー保護に関する議論の進展、参政権に関する1票の重みの不平等などがある。いずれの場面においても、人権保障の充実が最高裁の判断によって認められるに至っている。

 国家公務員の政治的活動の自由については、刑事罰による制裁を全面的に認めていた猿払事件の考え方から、より柔軟な姿勢へと転換している。プライバシー保護の権利については、憲法に明文規定がないにもかかわらず、幸福追求権を根拠として、その保障を重層的に充実させてきている。個人情報の保護に関する議論がその一例である。この関係で住民基本台帳ネットワークに関し、和歌山県住民も訴えを提起したが、全国共通してその訴えは退けられている。最後の参政権の保障では、定数配分に関する制度論について言及するに至っている。いずれも近時の判例や法制度の整備により、憲法保障を具体化する一定の議論の進展が見られたものである。

 統治機構についての問題として、集団的自衛権に関する最近の法制度と最高裁判所の姿勢の変化がある。個別的自衛権を超える集団的自衛権を明確に認める規定が憲法上見出せない以上、そのような権限の行使を認容することができないことは自明である。また、最高裁の最近の憲法判断に関する積極的姿勢については、注目すべきと考えられる。

 憲法が定める立憲主義、すなわちこれは国家権力を拘束する原理であり、多数決原理に基づく民主主義とはことなる原理による拘束である。昨今の社会状況を見ると、そのことをしっかりと認識する必要があると思われる。

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 和大とニュース和歌山は毎月原則第1土曜、和歌山市西高松の松下会館で土曜講座を共催しています。次回は8月8日(土)午後2時。講師は和大紀州経済史文化史研究所の吉村旭輝特任准教授で、演題は「祭り/祭礼と無形文化財の保存と継承」です。

(ニュース和歌山2015年7月25日号掲載)