現代社会と人文社会科学

 和歌山県内ではさまざまな祭り、祭礼が行われている。これらのなかには、存続の危機にさらされているものも少なくない。原因は少子化や高齢化、生活スタイルの変化と多岐にわたる。これらの問題をふまえ、2010年に復興した和歌祭『御船歌』の地域住民と学生が一体となった取り組みを取り上げ、今後の祭り、祭礼のあり方を考えたい。

 和歌祭は元和8年(1622年)に創始された紀州東照宮の祭礼である。当初から城下町衆が「練り物」として参加し、その形態は全国の東照宮祭礼でも初めてといえる。陸上では「ミなと(湊)町」が出した唐船、海上では藩の御船手方が出した御関船が繰り出し花を添えていた。そのなかでは舟水主(ふなかご)唄や御船歌が歌われていた。これらの歌は近世後期に御船歌に統合され、昭和55年(1980年)まで継承されていた。

 しかし戦後、和歌祭が商工祭の1イベントとなり、祭りを行う意義が失われつつあった。そのため様々な芸能は衰退し、御船歌も断絶することになった。

 背景には時代の流行や生活習慣の変化が大きく関係している。とくに御船歌の場合、ぶんだら節の流行などにより「古い歌」とのイメージが大きく影響した。平成22年(2010年)、有志によって御船歌は復興し、当初は注目度が高く、歌い手も増加傾向にあった。しかし最近は、注目度も下がりその継承の難しさを実感している。

 このような無形文化財の継承は全国各地で問題となっている。そこには「サラリーマン化」等の生業の変化による祭り、祭礼を行なう意義の変化や祝祭日の固定化が大きな要因となっている。行政の文化財指定による保存会の結成などで改善を図っているが、生活が変化している以上、「楽しい」祭りや「活きた」祭りから、「保存する」祭りにならざるを得ない現状がある。

 現在、上富田町市之瀬の大踊りが盆踊り大会ではなく小学校の運動会で継承されている。このようにそれぞれの祭り、祭礼や地域の歴史、現状を見極め、それぞれにあった継承方法だけでなく、生活スタイルを見つめなおす機会が必要になってきている。

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 和歌山大学とニュース和歌山は毎月原則第1土曜、和歌山市西高松の松下会館で土曜講座を共催。次回は9月5日(土)午後2時。講師は教育学部の越野章史准教授で、演題は「子どもの貧困と学校教育(政策)の課題」です。

(ニュース和歌山2015年8月29日号掲載)