先日結婚し、本欄の記名を旧姓にするか新姓にするか、ずいぶんと考え、旧姓を使うことにしました。インターネットで検索すると、4分の1ほどの既婚女性は、職場での旧姓使用を続けるというアンケート調査を目にしました。「独身時代に築いた信用、キャリアの継続」「業務上の円滑さ」などが理由に上がっています。

 今月中旬には、結婚後の旧姓使用を認められなかった女性教諭が人格権を侵害されたとして、勤務先の学校に損害賠償と旧姓の使用許可を求めた件で、東京地裁が女性の訴えを棄却したという報道がありました。「教材執筆にも携わっており、教員のキャリアの中では一貫したい」との女性に対し、「公人である教員は法に基づいた呼称が妥当」というのが学校側の主張でした。

 昨年12月には、最高裁が民法における夫婦別姓を認めない規定を「合憲」としました。世界を見ると、夫婦同姓の規定を設ける国はほぼなく、併記や夫か妻どちらか選択といった国が多いようです。

 「姓を変えたくないなら結婚するな」との意見も目にしました。新しい姓を名乗る喜びを感じる人もいれば、姓が変わることでアイデンティティを失うように感じる人もいるでしょう。私個人としては、そのどちらもある、というのが本音です。各種変更の手続き、仕事でかかわる方への報告と、わずらわしさや仕事上一貫したいという気持ちの一方、家庭を作っていく上での過程の第一歩にも感じ、もやもやと考えてしまいます。

 先の女性教諭の件ですが、判決後の会見では「裁判官の中に女性が一人でもいれば判断は変わっていたのかもしれない」と悔しさをにじませるコメントを出しました。これからどのように生徒や保護者と接するのでしょう? 自分の名前を口にするたびに苦痛を伴うのかと想像すると、胸が痛くなります。

 政府は女性の社会での活躍をうたっていますが、これでは逆に進んでいるのではないでしょうか。離婚数が増える一方、同性カップルを結婚関係とみなすパートナーシップ条例を取り入れる自治体が増加するなど、結婚そのもののとらえ方が少しずつ変わっている感触もあります。働く女性が増える中、慣例や利便性ではなく、当事者の声や現実を大いにふまえた上で、もっと身近に語られるべき内容に思えます。(宮端)

(ニュース和歌山2016年10月22日号掲載)