私用で静岡市へ行った時のこと。タクシーの運転手さんと富士山の話になった。天気が良ければいつでも仰げると思っていたらそうではなく、「見えるとね、いいこと起きる気がするんですよ。特段起きないですけどね」との答え。いいことの予感だけでも得られる風景が身近にあるのは少しうらやましい▼和歌山で好きな風景と言えば、紀三井寺、天満宮から眺める和歌浦、不老橋から見渡す干潟と名草山、紀の川と並走する和泉山脈…とあげていくと、きりがない▼個人的に親しみを抱くのは紀の川河口の夕日だ。それが心に映すのは、いいようのない懐かしさ。いいことの予感というより、いささか感傷的で、そう考えると自分の性格形成に影響しているように思える▼風景が心をつくるのか、心が風景に投影されるのかは分からない。ただ素晴らしい風景に出合い、全身が塗り替えられる気分になった経験はだれにでもあるだろう。風景は心。そう思うと、この季節の新緑がひと際まぶしく感じられる。  (髙垣)