浅井さんが樹木の撮影を始めたのは1989年ごろから。88年に1000ccのバイクを購入したのがきっかけだ。「仕事のストレス発散に、近畿一円の道路を走ったり、九州や北陸へ出かけたりしていたのですが、せっかく走るのなら、何か目的を持ちたいと思うようになった」。ちょうどそのころ、日刊紙に和歌山の名木を紹介する連載が掲載され、「これを回って写真を撮ろう」と軽い気持ちで始めた。
熊野速玉大社のナギ(新宮市)、龍王神社のアコウ(美浜町)、御崎神社のウバメガシ老樹(同町)…と撮り始めたところ、8カ所目の奥の院の経堂杉(高野町)を撮影に出かけたとき、ひとりの僧侶と話した。「人間の命は知れたもの。この経堂杉は厳しい環境の中、じっと500年も生き続けている。大木のそばで目をとじていると“無”の心境になれる」。「この話を聞いたとき、ライフワークにしようと決意しました」と浅井さん。
木を調べるため、県内の旧50市町村の役場を全部回り天然記念物の樹木について聞いたり、各市町村史をひもといたり。また、環境庁が発行していた資料から幹回り6メートル以上の木をピックアップした。
仕事が休みの日にバイクを走らせ撮影。50ミリの標準レンズで、暗くてもフラッシュを使用せず、「自然のまま撮る」ことにこだわった。翌日に現像し、その次の日から2、3日のうちに、特徴と訪ねた先で感じたこと、出会った木や人々との触れあいをノートに書き記してきた。
「行ったところはいまだに全部覚えています」。安珍清姫の伝説が残る稔木の杉(田辺市)はバイクをおり歩いて登った山の中で2時間迷った末にようやくたどり着いた。虎ヶ峰の一本杉(旧龍神村)は見つけるのに苦労し、2回目のチャレンジで撮影に成功。「やっと会えたと思いましたね」。かつらぎ町の丹生都比売神社前の杉は、撮影の前日に落雷があり、「こげ臭いが立ちこめていました。樹齢300年以上の大木で、落雷は3度目だったそうです」。最後は昨年夏、木の神様をまつる和歌山市の伊太祁曽神社で締めくくった。
本にまとめる予定はなかったが、「2年ほど前に妻が本にすればと言ってくれて。60歳の定年までには出したいと思っていました」。
カメラに収めた樹木は324本、62種類にのぼる。写真集には訪ねた順に掲載した。「文章を読んでいただくと、木に対する愛情がどんどん深まってきたのがわかってもらえると思います」と浅井さん。「どの木が良かったかとよく聞かれますが、すべてがすばらしい。木の前でひとり静かに過ごす時間がなんともいえません。木に会い、行った先々で人と人との触れあいが生まれ、“心のぜいたく”を与えてもらった」と振り返る。
「これからも古い木をずっと見つめていきたい。中には天然記念物指定でも管理が行き届いていない木もありました。木の状態がわかるような目を持つための勉強をしたい」と夢を描いている。
(写真=写真集を手にする浅井さん。手前の地図に木の所在地を細かく記している)
※写真集は関係者、県内市町村、図書館等にすべて寄贈しており、在庫はありません。
|