シベリア体験 若い世代に
遠藤敬一さん 『湿原に咲く花』出版

            
 11年間にわたりシベリア抑留を経験した和歌山市の遠藤敬一さん(89)が10年前に出した自分史『湿原に咲く花』にシベリア生活を描いた絵画を盛り込んで近く出版する。昨年6月、遠藤さんが収容所での体験を油絵に描き、展示した個展「シベリア抑留体験をしのぶ」が好評だったのを受け、かつて出版した自分史を改めて絵とともに世に送る。遠藤さんは「絵画展で私たちの世代の経験を受けとめたいとの若い世代の反応があった。体験を後世に伝えたい」と話している。
   
自分史に絵画27作品そえ
    
 遠藤さんは和歌山市出身。1942年に高槻工兵連隊に入隊し、満州へ渡った。44年に陸軍のハルピン特務機関文書諜報機関に配属され、ソ連の軍事産業関連の文書を翻訳し参謀本部に伝えていた。終戦後は軍事捕虜となり、11年間、シベリアでの収容所生活を余儀なくされた。
 帰国後、和歌山でロシア語の翻訳会社を自ら設立した遠藤さん。仕事を軌道に乗せながらもシベリア体験と戦時中の経験は頭から離れず、2000年に生い立ちから軍隊生活、シベリア抑留の日々をつづった『湿原に咲く花』を出版した。それでも自らの体験を問う思いはやまず、75歳から洋画家の故児嶋義一さんが指導する東児会に参加。85歳から3年かけシベリア生活を題材にした27枚の油絵を完成させ、昨年にはそれら全作品を展示する個展「シベリア抑留体験をしのぶ」を県民文化会館で開催した。
 雪の中の強制労働、厳寒の地の生活模様を記憶をもとに仔細に描いた作品は大きな反響を集めた。
 「夫がシベリアに行っていたが、絵を見せて頂き、夫の辛さが分かった」「『シベリアの事を思うと、どんな苦労もたえられる』と言っていた父の苦労を思った」と抑留経験者の家族の声や、「深い悲しみや苦しみが伝わってくる。この記憶を風化させてはいけない」「自分たちの物事のとらえ方を考えさせられた」と若い人の感想もあった。
 「親世代の苦労を聞いていなかった若い人の声が多く、その体験を受け止めたいと思う気持ちを強く感じた」と遠藤さん。自らの経験の集大成にしたいと、『湿原に咲く花』にこれらの絵画を合わせ、出版することにした。
 遠藤さんは「私はもともと戦争に反対で、戦時中は戦況を日本に優位な形で報告せず、軍部からにらまれ、シベリアでは逆に戦争を推進したと突き上げられた。それが最も辛かった」と振り返る。
 しかし、昨年、アメリカの大統領にオバマが就任。シベリア抑留者帰国のきっかけをつくった鳩山一郎の孫鳩山由起夫が首相になり、時代の転換を感じる。「戦争の時代は力と強さがすべてだったが、私は思いやりや優しさ、愛が大切だと考えてきた。オバマや鳩山首相が『愛』や『友愛』を政治の場で訴え始め、うれしい。戦争経験者は自分の経験に結論をもたねば本当の経験者ではない。最終章で私は愛と優しさ、思いやりに触れたが、私の人生の総括。読み物としても楽しめると思うので若い人たちに読んで欲しい」と語る。
 B5判。354ページ。2000円。和歌山県内の主要書店に置く予定。

写真上から=絵画作品でダイレクトに体験を伝える、遠藤敬一さん、シベリアでの労働を描いた作品

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