和泉山脈の豊富な地下水を使い、濃厚でまろやかな豆腐を製造する武田食品(岩出市吉田)。33年前に創業した武田康嗣さん(63)は和歌山県産食材を生かした豆腐を考え、県内外に和歌山の味を届ける。今夏には約10年ぶりに南高梅を使った梅豆腐を復活させる。込める願いは、和歌山の活性化と豆腐業界の再興だ。

 

味決める経験と勘

 

2016060801_miryokubito 早朝午前4時。日もまだ昇らない暗闇の中、工場に灯りがともる。まず最初にするのが室温と湿度のチェックだ。

 「季節や天候で豆の浸かり具合や甘味の出方が変わるので、経験と勘で毎日、大豆を煮込む時間を決めます。出来の良い豆乳は流した時、つやや香りが違うんです」

 にがりを加え、凝固が始まった豆腐を型枠に流し込んで水を抜く。ここでも、豆の水の含み方や職人の流し込み方が食感と風味を左右する。

 「同じ材料と工程で作っても日によって味が微妙に変わる。それが難しくて、けど楽しい。会社を立ち上げた33年前はほとんどが手仕事。だからこそ豆を深く理解し、感覚を磨くことができました」

 

梅入り商品復活

 

 他社と差別化を図るため、商品開発に情熱を注ぐ。これまでに、豆乳で作ったみたらし団子、ういろう、山形のだだちゃ豆を使った豆腐を生み出し、全国の百貨店で販売した。その一つ、14年前に開発したのが、県産の南高梅を混ぜ込んだ梅豆腐だった。

 「地元産品のPRにと考えました。梅は酸性が強く、梅肉を混ぜるとその周囲が先に凝固する。均一な食感と味を保つため、何度も梅農家や加工業者に相談し、酸性度や塩分を調整してもらいました」

2016060801_tofu 口に含むと、さわやかな梅の香りとすっぱさが広がり、大豆の甘さを引き立てる。珍しい豆腐として注目を浴びたが、材料費が高く、発売から2、3年で製造を中止した。その梅豆腐を今夏、再び販売することにした。

 「創業当時、和歌山市に40軒以上あった豆腐屋も、薄利多売で売り込む大手メーカーに押され、今は10軒以下に減った。今一度、県産食材を使った商品を打ち出し、和歌山の素材の良さと、豆腐本来の味わいに興味を持ってもらうきっかけを届けたい」

 豆腐へのこだわりを守りつつ、新たな可能性を拓く熱意を静かに燃やし続ける。

 

【武田食品】
岩出市吉田350-3。1983年創業。
松源、ザ・ロウズ、ヒダカヤ、近鉄百貨店和歌山店で販売(店によって一部商品のみの取り扱い)。
☎0736・63・0828

 

(ニュース和歌山2016年6月8日号掲載)