20141126miryokutakasita

 外はぱりっと香ばしく、中はふわっとジューシーな高下商店が手がける紀州備長炭干しの干物。さんまや太刀魚、アジに鯛と鮮魚本来の旨みを新製法で凝縮した干物は「ほくほくして絶品」「魚の臭みがしない」と全国から注文が寄せられる。南高梅の梅酢や串本産の塩を使った紀州備長炭干しを開発し、新たな干物の可能性を開いた3代目店主、高下昭人さん(33)に干物の奥深さと今後の夢を聞いた。 (文中敬称略)

紀州の恵み凝縮

──紀州備長炭干しはどんな製法ですか?

高下 普通の干物は魚を風に当てて乾燥させますが、備長炭干しは粉砕した備長炭に挟んで4〜6時間かけて水分を取ります。空気にふれないので旨みが凝縮され、ふっくらした仕上がりになります。炭の脱臭効果で魚の臭みも取れるので、この干物はパスタや丼ぶりに入れてもおいしいです。

──紀州備長炭干しを開発したきっかけは。

高下 祖父の代から九州の火山灰で水分を取る灰干しの干物を販売していましたが、他府県でも同じ製法があり、食品販売店に持っていっても「和歌山らしさがない」と言われ、なかなか取り扱ってもらえませんでした。悩んでいた時、お客様の中に備長炭を売る人がいて、「炭も水を吸う」と聞いたのがきっかけです。もっと和歌山の素材にこだわろうと、酸化防止剤の代わりに殺菌効果のある南高梅の梅酢を使い、コクがある串本産の天然塩で味を付けています。完全無添加の干物です。

──今年2月には県認定の優良県産品「プレミア和歌山」の審査委員特別賞を受賞しました。

高下 認証だけしてもらえればと応募したのに、その中でも一番の賞に選ばれたと聞いた時は驚きました。実は特別賞があることも知らなかった。地元素材へのこだわりと干物への熱意を評価していただけたようです

世界へ届けたい

──―家業の干物店を継ごうと思ったのは。

高下 父が体調を崩し、祖母と母2人だけで切り盛りしていて倒産寸前でした。親から「頼むからやらんといてくれ」と言われましたが、家業なら自由な時間もあって好きなサーフィンができると思い、はじめは軽い気持ちで継ぎました。実際やってみて「えらいことや」って気付きましたね。そんな状態でも「高下商店の干物は格別」と買いに来てくれるお客様がいたので、家の味には自信がありました。周りの人に名刺交換の仕方から教わり、ただがむしゃらに営業に回りました。

──―今では全国から注文が入るように。

高下 お客様や先輩、従業員、家族と色んな人に助けられました。携わって八年で「干物は奥深い」ということは分かりましたが、まだその奥深さを追究しきれていません。今後も素材へのこだわりは妥協せず、極力値段を抑えて、一人でも多くの人に毎日食べてもらえる干物作りをしたい。いつか世界へ届けたいです。

高下昭人(あきと)…1981年、和歌山市和歌浦生まれ。智辯学園和歌山高校、山口県の徳山大学で野球部員として活躍。卒業後は和歌山の大手食品スーパーの水産部門で3年間勤め、8年前から家業の干物店を継ぐ。

データ
【高下商店】和歌山市和歌浦南2ー3ー24。注文は電話(073・445・2000)、またはHP(www.kishu-marutaka.net)から。

(ニュース和歌山2014年11月26日号掲載)