miryoku1 海南市の東浜商店街にある「ずぼら焼」。3代目店長の今井政文さん(54)は、創業した1959年当時の味を守り続ける。焼きたての甘い香りに誘われ、100円玉を握りしめた小学生や部活帰りの高校生、家族への土産に箱買いするサラリーマンと客足が絶えない。ふんわりホカホカのずぼら焼は、海南名物として長く地元で愛されている。

街に漂う甘い香り

 生地を流し込んだ真ちゅうの板を勢いよく返し、ずぼら焼を一つずつクルクルっと素早く回す。10分ほどできつね色に焼き上がる。風に乗り、店先に甘い香りが広がった。

 「通常、今川焼や回転焼と呼ばれる和菓子ですが、『ずぼら焼』と商標登録して作っています。昔、小豆の価格が上がっても原価計算せず、そこはずぼらにして、お客様にいつでも同じ値段で同じ味を楽しんでもらおうと、創業者が名付けたんです

 黒あん、白あん、カスタードクリームの3種類で、いずれも直径7・5㌢、厚さ3㌢のずぼら焼にたっぷりと。どれも95円とお手ごろだ。

 「あんもカスタードクリームも自家製。あんは4時間かけて、つきっきりで炊いています。子どもから年配者まで色んな方が来てくれるので、甘さは控えめに。一度に10個食べるリピーター、紀南や大阪から買いに来てくれる方もいますよ」

昭和のなごり伝える

 和歌山市で生まれ育ち、大阪で7年働いた。結婚を機に88年から、妻の実家である「ずぼら焼」の店頭に立つ。

 「初めは義父に習いながら焼いていました。その日の気温やわずかな材料の配合の違い、あんを煮詰める数秒の差で味が変わってしまうほど奥深い。創業時と同じ味を守るため、30年近く経った今でも努力の毎日です」

 緑色のモザイクタイルにオレンジ色の看板。レトロな店の外観が、街に昭和のなごりを伝えている。

miryoku2 「昔は市電が店の前を走り、映画館が近くにあり、とてもにぎやかだったそうです。店から眺める風景は変わりましたが、小学生だった子が同じ年ごろの子どもを連れてまた来てくれ、久しぶりに海南に帰って来た人が『ここだけは変わっていない』と懐かしんでくれる。お客様の笑顔のため、生涯の仕事として長く海南で続けていきたいです」

 今年の冬も、街を行き交う人々の心をホカホカにする。

 

ずぼら焼…海南市日方210。午前9時半〜午後7時(売り切れ次第終了)。火曜定休。駐車場1台有り。☎073・482・4124。

(2016年11月23日号掲載)