4世紀に紀伊半島へたどり着いたという天竺(インド)の僧、裸形(らぎょう)上人、修験道の開祖で術を用いて空を飛行したと伝わる役小角(えんのおづぬ)、平安初期に唐に渡り密教を学んだ最澄、空海など名だたる高僧が千日行をしたという那智四十八滝が那智の滝の周りに分布する。

 中でも、陰陽の滝は重要な意味を持つ。陰陽とは対立する属性を持った2つの〝気〟で、万物の組成と消滅の変化は、この2つによって起こるとされる。この滝は、陰陽を表す太極図に似ている。

 そう思ったのは、2011年9月の紀伊半島大水害の前と後で、この滝の左右の水量が逆転したことである。まさに、こうした自然の脅威は混沌(こんとん)とした気の変化によって滝の姿すら変容させることを知ったのである。それは、かつて高僧たちを導いた悟りの滝である。

 和歌山県内には那智の滝を始めとする有名な滝から、何時間も歩かないとたどり着けない山奥にある無名の滝まで、約1000ヵ所にあると言われます。30年以上、熊野古道を撮り続ける海南市の写真家、大上敬史さんが、各地の滝に伝わる伝説や地域で守られてきた歴史を毎週土曜号で紹介します。

(ニュース和歌山/2017年9月2日更新)