飛び交う告訴告発
賃貸借めぐり対立
和歌山市の石泉閣事業
        
石泉閣
4月にもオープンが予定される石泉閣
 和歌浦振興の拠点施設のひとつとして和歌山市が整備している料亭「石泉閣」(同市新和歌浦)。この所有者と市が結んだ賃貸借契約をめぐり、告訴・告発が飛び交う事態となっている。契約をめぐっては昨年10月、市民オンブズマンわかやまが市を相手取り、これまで石泉閣に投入した改修費などの公金差し止めを求める訴訟を起こしていたが、先月、元県議や市議のグループが旅田卓宗市長を背任容疑で和歌山地検へ刑事告発。これを受け、旅田市長が元議員グループを虚偽告発罪で告訴した。この告訴・告発の対立を軸に問題を振り返り、市民の声を聞いた。
         
◆迎賓館「石泉閣」
 石泉閣の整備は、学識経験者らでつくる「和歌浦湾地域振興ビジョン策定委員会」が2000年にまとめた報告に基づいたもの。和歌浦の景観と文化的歴史を支える石泉閣を迎賓館として保存し、和歌浦を訪れる観光客をもてなす施設として整備する。エレベーターなどの改修工事を終えており、所蔵美術品展示のほか、喫茶コーナーの設置を計画。観光客の憩いの場として4月オープンを予定している。
◆契約をめぐって
 市は同事業で建物改造費と賃貸借契約について2000年9月、定例市議会に各年度内の予算内で給付し、毎年議会にはかる必要がある「長期継続契約」にかかわる支出として上程、承認を得た。
賃貸期間は同年10月から2020年まで。
 この契約について、01年の3月30日の包括外部監査結果で、20年間で土地建物の評価額をはるかに上回る7億6,000万円の支出が見込まれる▽翌年度の賃貸料予算が得ることができなかった場合は市が契約解除できる規定が契約書にないーとの判断で、契約は複数年度にまたがって支出が必要で、議決のいる債務負担行為であり、「政策目的や具体的利用案を議会に明示し、議決を得るべきだった」とした。
 しかし、市民オンブズマンわかやまが行った住民監査請求に基づく個別外部監査では昨年8月、「公金の支出は妥当」とし請求を棄却した。
 市は現在、月額140万円の賃貸料が高すぎる点から買収に向けた交渉を予定。新年度予算に鑑定手数料約200万円を計上している。
◆告発と告訴
 元議員グループの告発は、料亭を所有する女性と旅田市長が親密な関係にもとづいて女性所有者と自分の利益を図り、市議会の承認を得ず、建物改造費など約1億7,800百万円の損害を市に与えたとするもの。告発状では「債務負担行為とするのが相当」とした包括外部監査結果を引用。20年間で建物評価額をはるかに上回る7億6,000万円の支出が必要とした部分をあげ、「土地と建物を購入する以上の支出を余儀なくされかねない」とする。また、所有者の女性との親密な関係も指摘。議員グループの一人は「契約は債務負担行為。議決を得なかったのはごまかし」と批判する。
 一方、これを受け、元議員グループを告訴した市長の弁護人は、5日の記者会見で、「長期継続契約とするのは法的に問題なく、法技術的なもの」と話した。告訴状の中で、「(住民監査請求に基づく)個別外部監査で本賃貸借契約にかかる疑義は一応の決着を見ている」とし、包括外部監査の結果を論拠とする議員グループの姿勢を否定。「元議員グループは“見解の相違”である問題を背任と絡めている」と批判した。
◆市政の焦点?
 元議員グループの一人は「旅田市政には問題が多く、市政を壟断(ろうだん)している。石泉閣問題でも賃貸料の支払い先が複数あるうち、女性に傾くなど不審な点が多い」と語る。一方、会見で旅田市長は「(契約は)議会にはかっており、なんら違法性はない。2月議会直前の告発に私をおとしめる意図を感じる」と互いに譲らない。
 石泉閣事業については昨年10月、市民オンブズマンわかやまが市を相手取り、公金支出の訴訟を起こし、係争中。講談社のフライデーが石泉閣の所有者と旅田市長が愛人関係にあると報道した件については旅田市長が名誉棄損で訴えた。さらに、2月市議会でも質問が相次ぐなどさながら“市政の焦点”の様相を呈している。
 課題の多い和歌山市で、この問題を“焦点”としている余裕はあるのか。市民の判断が求められる。
和歌浦振興につながるのか    
 地域経営研究所代表の山本好男さん=石泉閣は木造中心の建物で、収蔵物もすばらしい。市長の愛人疑惑や海外視察の件で、おかしな問題になっていますが、和歌浦振興の点から考えれば、建物を市が買い取って、市民の憩いの場、県外から来た人の心をいやす場所にして欲しい。あの辺りは景色がすばらしく、市は以前から新和歌浦の旅館跡を「ほうらい荘」としてお年寄りらの憩いの場にして利用しています。また、明治の末に完成し、夏目漱石ら多くの文人が通ったと言われ、近代文化財の価値がある素掘りのトンネルも残っています。これら現在あるものをうまく使っていけば、和歌浦振興に新しい開発は必要ないと思います。

 和歌山市の会社員(25)=石泉閣で美術品を展示したり喫茶コーナーが整備されたところで、果たして和歌浦の活性化につながるほどパンチのある施設になるのか疑問で、巨額の税金を投資してまですることでないと思う。集客を図りたいなら、バーベキューやキャンプ場といった今はやりの自然のテーマパークを造り、海を生かしてマリンスポーツを取り入れるなど、若者にアピールできる施設を造る方がよい。それに、市長と石泉閣の所有者の愛人関係が本当なら、立場を踏まえた行動とは思えず猛烈に腹が立つ。また、いつも思うが事業の内容は新聞記事で知る程度なのが不満で、税金を使うのだからもっと市民に宣伝し、賛成を得てから進めてほしい。

 和歌浦湾地域振興ビジョン策定にかかわった中西重裕さん=ビジョン策定に取り組んでいる最中の〇〇年夏に不老館が取り壊されました。確かに老朽化していましたが、それを再生し情報発信拠点とする方針で進んでいたのが急に覆され、当初計画が崩れてきています。石泉閣についても老朽化していましたが、離れから見る和歌浦湾は絶景です。建物、料理ともちゃんとしたものを出せるところで、その意味で価値はありました。しかし、当初の全体方針が崩れ、また、市が言うような迎賓館的な活用法であれば、ビジョン策定にかかわった者として使える中身ではないと考えます。もう一度、市議会の場で考え直して欲しいものです。

 和歌浦を描く画家・堤慶さん=石泉閣を美術品の展示場にするには、あまり広い部屋もなく、ふさわしくないと思うので、なぜ選んだのか疑問が残るが、和歌浦に芸術関係の施設を集め、活性化を図っていこうという取り組みはいいと思う。なぜ、石泉閣かということには、市長の私的なことが絡んでいて、おそらく世論の方が正しいと思うし、これは裁判の成り行きをみていきたい。ただ、石泉閣だけがクローズアップされているが、和歌浦湾地域の振興策の全体像をみることも大事だと思う。

 和歌山市の自営業者(34)=法律に触れていないならば、多少グレーな所があっても目をつぶってもいい。ただし、それは和歌山市や和歌浦の振興につながるという確実な見通しがあってのこと。もし、そうでないのならば許されることではない。和歌山市は石泉閣への支出に見合う将来の見通し、きっちりとした採算性を示して欲しい。和歌山に必要なのは確実な結果だ。悠長なことをしていると市は本当に廃れてしまう。