大庄屋の偉業めぐる
清水町 懐かしさ誘う棚田の風景
“男前”に託した紙すき振興
       
棚田100選に選ばれた蘭島
棚田100選に選ばれた蘭島
 山あいに広がる農村風景や有田川のせせらぎが、訪れる人の心を和ませる清水町。川遊びや魚釣り、ハイキングなど四季を問わず、豊かな自然に触れることができる。今回の「紀の国漫遊派」は、清水町の歴史に詳しい紀州語り部の二澤久雄さんイチ押しのスポットを巡った。
        
江戸時代にできた蘭島
 「清水町といえば、やはり蘭(あらぎ)島。江戸時代の初代大庄屋、笠松左太夫が1661年(寛文元年)に段々畑を田に作り変えました。田の姿はもちろん、背景の水ヶ宝形山がまた美しい」と二澤さんから聞き、蘭島を目指す。
 海南湯浅道路吉備ICを降り、国道四480号を有田川の上流に向けひた走ると清水町に入る。この日は3月下旬の暖かさで、上着もいらないほど。右手に二川ダムを見ながら、しばらく行くと「蔵王橋」と呼ばれる釣り橋が架かっている。さらに進むと、右手に蘭島が見えてくる。道が狭いため、200メートルほど戻った所にある駐車場に車を止め、歩いて向かう。
 蘭島の景観は全国的にも有名で、1996年に「美しい日本の村コンテスト」で農林水産大臣賞、99年には県内で唯一「日本の棚田百選」に選ばれた。
 ひなびた農家が立ち並ぶ道を歩いてゆくと、段々に開かれた田が見えてくる。くっきりした山の稜線、目前に広がる丸みを帯びた田を囲むゆったりした川の流れに、どこか懐かしさを感じた。
 田に引かれた用水路は、江戸時代に左太夫を中心に地元の人が整備したもので、現在も使われている。二澤さんは「山深い土地での用水路づくりは大変な作業。左太夫さんは清水町の恩人です」と語っていた。
     
昔ながらの保田紙作り
紙すきを体験できる
紙すきを体験できる
 「左太夫さんの偉業をもう1つ」と二澤さんが話し出したのは、紙すき。新産業として、1658年(万治元年)に始め、昔のこの辺の呼び名から“保田紙”と言うそうだ。
 当時、高野山以外に紀州藩内で紙すきをしている所がなかったことで、左太夫は取り組みを決めた。が、その技術は企業秘密で、どこへ行っても教えてもらえない。そこで左太夫は一計を案じ、男前を3人集め、「吉野紙」で有名な大和へ派遣。1人は紙問屋の下働き、1人は小間物屋の商人、もう1人は呉服屋の商人になった。のちに3人とも紙すき技術を持つ女性を妻にして故郷に戻り、紙すきを周辺の村にも広めたという。
 「高齢者生産活動センター」で紙すき体験ができると聞き、蘭島から東へ5分ほど車を走らせる。左手の町役場を過ぎ、右手の「しみず温泉」の方へ曲がると、温泉の前にセンターがある。
 ここでは高齢者が昔ながらの方法で紙やわらぞうりを作っている。ちょうど花園村の梁瀬小学校6年生がお年寄りから指導を受けていた。原料となる楮(こうぞ)を加工した紙素、のり、水を入れた流しの中で、木枠で出来た「すきぶね」をゆらゆら前後に動かし、すき上げる。できたものを木の台に張りつけ、乾かせば完成だ。児童らも満足そうだった。
       
巨岩そびえる生石神社
巨岩の前に社が建てられた
巨岩の前に社が建てられた
 最後に向かったのは、生石高原のふもとに位置する生石(しょうせき)神社。二澤さんから「989年(永 元年)、一夜にして高さ31メートル、幅15メートルの大きな岩が現れた。村人は神のおでましと思い、岩の前に社をたてて信仰するようになりました」と、いわれを聞いたからだ。
 道がややこしいため、役場の人が車で先導してくれるという。役場からもと来た国道480号を戻り、蘭島を過ぎて10分ほど行くと左に水色の橋が見える三叉路を右折。しばらく進み、左手の道に鋭角に入る。急な坂道が続き、ギアをローに入れ、車をウーウーいわせながら走ると一気に山奥へ。
眼下には町を見渡せ、気分は爽快。一本道を15分ほど上がってゆくと、「生石神社」と書かれた看板が見える。
紀州語り部の二澤久雄さんのふるさと自慢
二澤久雄さん

 清水町は国の重要文化財の吉祥寺薬師堂を始め、岩坂山の美作法仙寺観音堂など歴史的な建物のほか、豊作を願った予祝行事の御田舞(おんだのまい)、二川歌舞伎などが有名で、町そのものが“生きた歴史民俗博物館”だと思います。また、平維盛直系の32代目が住んでいるのも自慢。山椒の生産は日本一で、とても品質の良いものが採れます。

 標高約800メートル、木立に囲まれた場所にある生石神社。道の脇には溶け残った雪が固まり、ひんやりした空気が辺りを覆う。社の後ろには想像以上の巨岩が堂々とそびえている。
 二澤さんが「巨岩に周辺の石がおじぎしているように見えます。石たちも信仰しているのでしょうか」と笑いながら話してくれたのを思い出して見てみると、どことなく巨岩になびいているような…。
 天に向かい堂々とそびえ、太陽を浴び一層青白く輝く大きな岩。昔の人が畏敬の念を抱いた気持ちがよく分かる。大自然と歴史のつながりを深く感じた旅だった。(2月21日、小田文子)
周辺地図
インフォメーション
 〈アクセス〉海南湯浅道路吉備ICを降り、国道480号をひたすら有田川の上流に向かって走る。和歌山市から約1時間30分。
 〈周辺〉ふれあいの丘スポーツパークに全長約430メートルのスポーツスライダーがある。また、テニス、パターゴルフ、ローラーブレードなどが楽しめる。泉質の違うしみず温泉と二川温泉があり、キャンプ場や釣りのスポットも充実。
 〈問い合わせ〉清水町役場企画振興課(0737・25・1111)。
   
   

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