『あの笑顔と生きる』
犯罪被害者自助グループ「なごみ会」
家族への思い出手記集に
       
なごみの和のメンバー 犯罪や交通事故などで家族を亡くした被害者でつくる和歌山市の自助グループ「なごみの和」が4月、家族を失った悲しみや思いを寄せた手記集『あの笑顔と生きる』を出版した。1998年夏に和歌山市で起きた毒物カレー事件で亡くなった鳥居幸さんの母百合江さんらが心情を綴っている。製本を担当した印刷会社が善意で手記集を大幅に増刷、また、NPO法人紀の国被害者支援センターが編集、校正を手がけるなど、多くの協力が寄せられた。

写真=手記集を手にするメンバーと田中社長=中央=ら)

       
 なごみの和は2000年6月に設立。京都で一人息子を殺された和歌山市の黒江恵美子さん、毒物カレー事件で長女を失った同市の鳥居百合江さん、夫が強盗殺人にあった泉佐野市の大引節子さんの3人が立ち上げた。月1回、和歌山市木広町のふれ愛センターに集まり、互いの気持ちを話し合っている。
 手記集は2月に黒江さんが発案。3人を始め、“交通殺人”で娘を亡くした人、学校のクラブの練習中に熱中症で息子を亡くした人ら計9人が自らの体験や心の動きを執筆。文章だけでなく、故人の写真や詩も掲載した。
 鳥居さんは「私や主人にとって一人娘の幸は生きがいであり、楽しみを沢山運んできてくれる存在でした。その支えを犯罪によって突然奪われることは私達の生きる目的を失うことです」と胸のうちを吐露。娘への手紙として「幸も今年の誕生日で二十歳ですね。少し早いけれど『おめでとう』の言葉を贈ります。あなたも大人の仲間入り、優しいすてきな女性になってね」と結んだ。
 黒江さんは「量り知れないほど辛く悲しい想いをした分、その悲しみを優しさに、その辛さを強さに変えて、一歩づつ歩いて行こうと思う」。大引さんは「遺族にとって傷の癒えることは決してありません。けれど遺族にはこの先も人生があります。この道をどう歩いていくかは誰もが努力をして行かなければならないのです」と綴った。
 メンバーは手記集の製本を和歌山印刷所(田中敬彦社長)に依頼していたが、同社から思いがけない支援を受けることになった。担当した営業部の大野一也さんが、千部を予定していた当初の予算で、倍の2,000部の印刷を申し出てくれたのだ。
 大野さんは交通事故で後輩を亡くしたことがあり、「話を聞くうち、多くの人に読んでもらうべきだと強く思いました」。大野さんから報告を受けた田中社長が、増刷を快く了承。「このような仕事はお金と関係なく積極的に対応するよう営業マンに指示しています。この冊子を読んで心を動かされない人はいないはず。支援の輪を広げてゆきたい」と語る。
 増刷を聞いた黒江さんは「声が出ないほど驚き、うれしかった。亡くなった人たちがエールを送ってくれているように感じました」。
 鳥居さんはテレビで悲惨な事件が報道されるたび胸を痛めており、「家族や友達など多くの人が苦しんでいると分かってほしい」。大引さんは「生かされたものの務めとして、犯罪がなくなってくれることを願っています」。
 手記集の編集、校正に協力した紀の国被害者支援センターの山本昭一事務局長は「被害者の思いがそのまま詰まった手記。ぜひ、多くの人に手にとって読んでもらいたい」と話している。
 『あの笑顔と生きる』はB6判、44ページ。希望者は同センター(073・427・2100)へ。郵送も受け付ける。