| |
| 縁起絵巻に始まる探訪 |
| |
昔、山深い里に大伴孔子古(くじこ)という猟師が住んでいた。ある日、孔子古が獲物を捕えようと待ち構えていると、おのずと光る場所が出現した。「ここは聖なる地」と感じた孔子古は草葺きの小屋を建て拝んだ。すると1人の童男が現れ、「仏様を作ってあげよう、その代わり7日間だれも見てはいけない」という。後に訪ねるとそこに千手観音の姿があった。
ところ変わって河内の国。難病にかかった長者の娘のもとに童男が現れ、7日間お経を唱え続けると病が治った。童男は娘から、赤い袴と守り刀だけを受け取り、自分は粉河の者と告げて帰っていった。長者と娘はお礼参りをしたいと粉河を目指したが、山深くてわからない。すると白い粉を溶かしたような一筋の水が流れる川を見つけた。粉の川=粉河と考え、川に沿って歩くと、草葺きの小屋を見つけた。扉を開けると、そこには見覚えのある赤い袴と刀を手にした千手観音がまつられていた。
「これが、粉河寺縁起絵巻にかかれているお話です」。増田さんの絵解き物語から始まった今回の探訪。まずは粉河寺を訪ねた。
|
| |
| 荘厳な気配鈴の音響く |
| |
粉河寺には国宝の粉河寺縁起絵巻と、本堂、千手堂、中門、大門の4つの重要文化財がある。そのうち大門は、4年前から解体修理されている。「ようやく平成の大修復が終わり、7月の粉河祭の前に、大規模な落慶法要が行われる予定です」と増田さん。
その大門前の門前町はかつて多くの商家が並び、特産品を生み出した。鋳物、うちわ、酢、そして大工さん。鋳物は江戸時代のブランド品で関東一円に広まり、和歌浦の葦柄で作ったうちわは紀州の奥女中への中元に、酢は江戸幕府の御台所で使われていたそうだ。
今は人通りはそう多くない。「むかしの面影がだんだんなくなり寂しい限り」との増田さんの言葉に時代の流れを感じつつ、境内へ足を進める。
いくつものお堂が並ぶなか、童男堂に手を合わせ、出現池をのぞき、中門をくぐる。国の名勝に指定されている桃山時代の枯山水の石庭の後ろに本堂がどっしりとたたずむ。荘厳な気配の中に、ちりんちりんと鈴の音が響く。見るとお遍路姿の女性。筆者も思いを胸に本堂で手を合わせた。
|
| |
| 北から南へ山から山へ |
| |
粉河寺をあとに、紀泉高原にあるハイランドパーク粉河を目指す。20分あまり山を登っていくと、山頂に展望台が登場。関西国際空港が眼下に見えると聞いていたが、あいにく雨あがりの空。残念ながら空港は見えなかったが、幾重にも重なる山の稜線と、ウグイスやカッコウの鳴き声に改めて紀泉山脈の豊かさと深さに触れることができた。ここから葛城山へ紀泉高原スカイラインがのび、ドライブが楽しめるが、次の機会に残し、増田さんが「癒しの地」と教えてくれた鞆渕八幡神社に向かうことにした。
紀泉高原から紀の川を挟んで南側、龍門山の向こう側に鞆渕地区はある。粉河町を北から南へ縦断することになった。途中、役場で道を尋ねると、「鞆渕へは隣の町からでないと入れない」とのこと。笠田(かつらぎ町)回りと桃山町回りがあるが、笠田の方から行こうと龍門橋を渡り、県道和歌山橋本線をかつらぎ方面に向かう。「笠田」と聞いていたが、途中「上鞆渕」の標識にひかれ右折してしまった。
すると、どんどん山を登ることになり、遠く眼下に粉河の町を見下ろす羽目に。次第に道幅も狭くなり、車1台がやっと通れる程度。「間違えたか」と思ったものの引き返すのもままならず、そのまま走り続けた。急な坂道にアクセルを踏む足に力が入る。不安なまま上り詰め、杉林を抜けていくとようやく広い道(県道かつらぎ桃山線)に出た。思わず出た言葉が「助かった」。
気持ちを落ち着かせ、桃山方面に進むと程なく鞆渕八幡神社に着いた。杉やひのきの老樹におおわれた森の中に朱塗りの社が建つ。「鞆渕のみこしさん」と地元の人が呼ぶ国宝のみこしがのこる。一般公開されていないが、「日本で最も古いといわれる3つのみこしの中でも一番見事」と増田さんは自慢する。
境内を歩いていると近くを流れる真国川のせせらぎの音が耳に入ってきた。梅雨のむせる夜、この真国川や支流の本川でほたるが乱舞するという。渓流の周囲にそびえる杉やひのきにとまり、青白い光を放つと、「それは見事なもの。クリスマスツリーのようや」と増田さん。別の人は「光の屏風みたい」ともいう。
幻想的な光の舞を想像しつつ、緑深い山里に心をゆだねながらゆったりとした時間を過ごすことができた。(5月23日、山本三枝) |
| |
| 紀州語り部の増田博さんのふるさと自慢 |
| |
粉河町は寺を中心に栄えた歴史深い町。多くの文化財がそれを物語っています。町は粉河寺の門前町ににぎわいを取り戻したいと整備に取りかかっています。また、鞆渕はほたるや秋の紅葉が見事で、山里をハイキングしてもらえれば、心の癒しになると思います。
|
|
〈アクセス〉和歌山市から国道24号を東へ1時間ほど。
〈周辺〉厄よけで知られる長田観音がある。ハイカーに親しまれる龍門山にはキイシモツケが群生し、5月下旬から6月上旬にかけ花を付ける。夏には粉河祭が盛大に繰り広げられる。今年は7月27日、28日に開催。 |