女子総合格闘技家 上田美紅さん
1ラウンドKO 圧巻デビュー
純粋に“強さ”追求
        
         
時代に挑む、次代を拓く新世代 もっと強くなりたい――。単純明快、純粋な言葉に力強さがこもる。19歳、上田美紅さん(湯浅町在住)が歩み始めたのは女子総合格闘技の道。日本拳法13年、空手4年の経験を生かし、今年1月から和歌山市の総合格闘技「無名塾」へ通い始めた。突然決まった2月のデビュー戦は鮮烈な第1ラウンドKO勝ち。ここ2、3年で急激にファンを増やしている女子総合格闘技界に旋風を巻き起こせるか。

    
ストレート一閃 館内に響く歓声
    
佐々木塾長との練習に汗を流す上田美紅選手 第1ラウンド40秒過ぎ、鋭い左ハイキックが相手選手を襲う。振り上げた足を下ろした次の瞬間、間髪入れずに繰り出した右ストレートが鮮やかに顔面をとらえる。練習通りの攻撃、1回目のダウンを奪う。さらに攻撃の手を休めず、ワンツーから再び右ストレートがクリーンヒット。試合終了を告げるゴングが鳴り響き、館内が歓声に包まれる。
 1分51、KO勝ち。直後、セコンドを務めていた無名塾の佐々木浩敏塾長がリングへ、最高の笑顔を観客に披露すべく肩車した。「勝ったら、先生がしてくれることになってたんです」
 試合展開が作戦通りなら、試合後のパフォーマンスも予定通り。落ち着いた試合運びから繰り出すスピーディかつパワフルな攻撃。鮮やかなデビュー戦勝利は、多くのファンの心をとらえた。

写真=佐々木塾長との練習に汗を流す上田美紅選手=右)

     
きっかけは“姉妹ゲンカ”
      
「テレビのチャンネルをあちこち変えて、ボクシングの試合が目にとまると必ず見ていました」。幼いころを振り返る上田選手は、3人姉妹の長女。姉妹ゲンカを見た両親のひらめきで、小学1年から日本拳法を始めた。2000年には全日本拳法総合選手権大会高校の部で優勝。昨年も一般の部で準優勝している。
 さらに空手を始めたのは高校1年。進学した箕島高校で、「絶対にインターハイへ連れてゆく」と顧問に口説かれた。その言葉通り、高校2年と3年の2回、全国切符を手にした。
 高校卒業後、格闘技用品販売会社へ就職した。そこで出会ったのが、会社と取引のあった無名塾の佐々木塾長。総合格闘技をしてみないかとスカウトされた。
 プロテクターなしで打ち合う総合格闘技に恐怖心はあった。しかし、「これまで日本拳法と空手をしてきたから、こういうチャンスができた。私はそういう道かもしれない。やらなかったら後悔する」。
 今年1月、無名塾の門をたたいた。
    
驚くほどに冷静 初めてのリング
     
 通い始めて約1カ月、2月10日を過ぎたころ、佐々木塾長に知人から連絡が入った。「大会で欠場者が出た。だれか選手を紹介してほしい」
 その大会とは、TBSの番組「サイボーグ魂」が企画した女子総合格闘技大会。返事は5日後。佐々木塾長は一時、他のジムに回そうかと考えたが、上田選手に話を持ちかけた。経験がないことはもちろん分かっていた。だが、練習を見て、またスパーリングパートナーを務め、打撃のセンス、守備面の対応など実力が十分あるとの確信があった。
 2月25日、多くの格闘技ファンが視線を送るZepp東京のリングに立った。対戦相手は2戦2勝の実績をもつ実力者、大畑綾子選手だった。
 初めてのリング。当然、緊張していた。しかし、心地よい緊張だった。開始直後、大畑選手が繰り出したジャブで、相手の動き、そして実力が分かった。「あの時、(上田選手が)リング上でニヤッと笑ったんです」。セコンドをしていた佐々木塾長は振り返る。
 結果は前述の通り。新人らしからぬ試合運びで、全く寄せ付けなかった。「『あんな試合できるんや』って自分で驚くくらい、落ち着いてました」。新たな自分が見つかった。
    
頂点へ続く道 自然体で歩む
     
 圧巻のデビュー戦は全国へテレビ放映された。直後から対戦を希望する多くのオファーが舞い込み始めた。「55キロ級で最強と言われる虎島尚子に勝てるのは上田しかいない」。そんな声すら聞かれるようになった。
 「今の時代、めったにいない純粋な女の子。だから一途になれるんです」。高く評価する佐々木塾長。今後については、あくまで本人の意思を尊重すると前置きした上で、「和歌山から世界チャンピオンを育てたい」と夢を語る。
 5月に退職、格闘技中心の生活を始める。「練習が好きなんです。楽しくて、あっという間に時間が過ぎるんです」。佐々木塾長指導のもと、実践中心のトレーニングに汗を流す。将来的には指導者の道を考えているが、当面の目標は「もっと強くなりたい」と単純明快だ。
 「倒すか、倒されるか、そこが魅力」。あくまで自然体で歩み始めた総合格闘技の道は、頂点へ確かに続いている。
 そんな予感がする。