せまる南海地震
県内 最悪5000人超が犠牲に
       

 30年以内の発生が予想される東南海、南海地震について、国の専門調査会が先月、被害想定を公表した。これによると、県内の死者数は最悪のケースで約5100人。高知の約6200人に次ぎ、都道府県別で2番目に多い数字だ。木村良樹知事は「想定される範囲内での最悪のシナリオ。これを把握した上で、今後の地震防災対策に取り組むことが県民の命を守ることにつながる」とコメント。被害を最小限にくい止めるための対策が急がれる。

            
全国で死者2万人
      
1946年の南海地震直後の田辺市内。船が打ち上げられ、戸や木材が散乱している=県総合防災室提供 被害想定をまとめたのは政府の中央防災会議「東南海、南海地震等に関する専門調査会」。東南海、南海地震が同時に発生、地震の規模はマグニチュード8・6で、和歌山、徳島、高知などで震度6強以上と想定した。
 被害状況は冬の午前5時、秋の正午、冬の午後6時の3つで予想しているが、死者数が最大となるのは、建物倒壊の影響が最も大きいと考えられる午前5時。被害は関東から九州にかけての広範囲にわたり死者は2万人以上。県内は約4700人と見られる。
 その内訳は、建物倒壊が1000人、津波が3300人、斜面崩壊が300人、火災が40人。これに水門が閉じず、さらに住民の避難意識が低いと考えた場合、400人が上積みされ、計5100人となる。

写真=1946年の南海地震直後の田辺市内。船が打ち上げられ、戸や木材が散乱している=県総合防災室提供)

    
津波被害ワースト1
    
 注目すべきは津波による死者3300人で、この数字は全国最多。県総合防災室は「予想以上。今後の津波対策が重要」と話す。
 紀南では地震発生後、10分以内に津波が到達する場所も多い。「構造物で防ぐのは限界がある。すぐに逃げる対策から始める」と同室。県は、ハザードマップ作成の際の資料となる津波被害シミュレーションを2年間かけて行う計画だ。
 また、地震後の被災者支援対策として、ヘリコプターの積極活用を提案するのは和歌山民間救援隊。松井駿介事務局長は「津波に直撃されると、陸路や海路は使用できない可能性が高く、被災地への救援物資輸送や救助にはヘリが最適」。ヘリ一機あたりの輸送量は大きくないが、「ピストン輸送を行い、回数でカバーする。さらに、物資を運んだ後は、帰りに病人やけが人を運ぶ」と説明する。
 ただし、県の防災計画では主に学校の運動場や公園がヘリ発着場と想定されているが、「阪神・淡路大震災では運動場や公園は避難所となった。実際に発着するのは難しい」と指摘。「一般の人に遊休地をヘリポートとして提供してもらうことを考えた方が現実的」と話し、ボランティアヘリポートを県内50カ所に整備することを目標に各方面に働きかけている。
    
進まぬ建物の耐震化
     
 倒壊のおそれがある建築物は県内にどれだけあるのか。現在の耐震基準法は、宮城県沖地震後の81年に改正されたもので、「新耐震設計基準」と呼ばれている。阪神・淡路大震災で倒壊した建物の多くが旧基準下で設計されており、新基準による建物は被害が少なかったとされている。
 県が試算した81年以前の木造建築物の棟数は17万1600戸で、木造住宅全体の64・4%にのぼる。学校や公民館などの公共建物では4032棟で、全体の65・1%となっている。
 また、阪神・淡路大震災を機に、新基準を満たさない建物に耐震診断や改修をすすめる「耐震改修促進法」が95年に施行された。中でも、学校や病院、事務所など不特定多数の人が利用する、3階以上かつ1000平方メートル以上の特定建築物は県内に560件あるが、改修計画認定を受けているものはごくわずか。県都市計画課は「実際の改修までにはなかなか進んでいない」と見ている。
    
各地で自主防災を
     
 阪神・淡路大震災では近所の人に救出されたケースが約8割だったことからも分かるように、地域ごとの防災体制づくりは欠かせない。和歌山市では95年から、連合自治会を単位に順次自主防災会を結成、2001年に全42地区で設置を終えた。
 ただ、住民の自主組織であるだけに活動に関しては地域ごとに“温度差”があるのが実状。地区をあげた防災訓練や研修に取り組むのは全自主防災会の「4分の1程度」(市消防局防災課)で、地区内の避難路を確認する形で大がかりな救出、消火訓練を行った地域もあれば、動きのない地区もある。
 上辻恵消防司令長は「あくまで自主的組織なので活動は強制できない。できるだけ危機意識も持ってもらうよう広報を続ける」とし、「地域の地形や環境など実状に応じたマニュアル化が進めば理想」と話している。
   
東南海・南海地震とは
     
 東南海・南海地震とは 紀伊半島沖の南海トラフと呼ばれる海溝が震源で、震源が浜名湖沖から潮岬沖までなら東南海地震、潮岬沖から足摺岬沖までなら南海地震となる。いずれも100年から150年ごとに起こっているが、前回の東南海地震(1944年)、南海地震(46年)は比較的規模が小さかったことから、今世紀前半の発生が予想されている。過去の東南海、南海地震を見ると、1605年、1707年に同時発生。1854年には12月23日に東南海、翌24日に南海地震が起こっており、同時または連続して発生する可能性が高い。