手作り芝居「瞼の母」に涙
利用者横田さんと職員ら一丸

     
 和歌山市松江東の特別養護老人ホーム、アンシアナトーで6月4日、利用者
の横田哲雄さん(65)が脚本、演出などを手がけた芝居「瞼の母」が上演さ
れた。出演、大道具、小道具は全て職員手作りの舞台で、横田さんは
「僕は出演者と観客の橋渡し役。出演者には時代背景から教え、見る人によ
り伝わるように心がけています」と話している。
     
 昔から演劇や映画を観るのが大好きだった横田さん。30年間に渡り新聞記者をしていたが、約10年前に脳出血で倒れ、左半身に麻痺が残った。6年前からデイサービスで同施設を利用している。「体に麻痺は残ったが、頭はとても冴えてるよ」と笑う。
 当時から職員による手作りの演劇が定期的に行われていたが、「より良いものを」と芝居に詳しい横田さんにアドバイスを求めた。以来、脚本、演出を横田さんが引き受け年1回開いており、今年で5回目を迎える。
 「瞼の母」は番場の忠太郎が生き別れた母との再会を夢見て江戸に旅立つ物語だ。今回上演されたのは忠太郎と母が再会を果たすクライマックス。
 観客の利用者約70人は、おひねりを投げたり、大きな拍手を送ったり。中には感極まって涙する人もいた。82歳の女性は「毎年楽しみにしています。職員さんの一生懸命な姿と、みんなで一緒に楽しめるのがいいです」とにっこり。
 今回、出演したのは演技初挑戦の職員ばかり8人。横田さんの「新しい職員を早く利用者に覚えてもらうために」との配慮からだ。仕事の合間をぬって練習を重ね、本番を迎えた。出演者の一人多田桃子さんは「舞台に立ったらすごく緊張してしまいました。でも皆さんに観てもらえて嬉しかったです」と話していた。
 今回の演劇の責任者で司会を務めた職員、清水敏光さんは「横田さんと6年前に出会って一緒にやり始めてからは、感謝の気持ちしかありません」と終了後、横田さんと堅く握手を交わした。
 夢は「紀の国ぶらくり劇場に一歩でも近づくこと」と横田さん。「利用者の中には外出できない人もいる。芸能の世界に触れることで、お年寄りの『喜怒哀楽』を引き出して、これからもうるおいを与えたい」と意欲を見せていた。

写真上から=熱の入った演技をする職員たち、脚本を手にする横田さん