和歌山の“小さな”顔 シラス追う
西脇沖 船曳き網漁に同行取材
 釜上げや天日干しちりめん、また、様々な料理に彩りを与えるシラス。最近は豊富なカルシウムから健康食材としても人気を集める。和歌山では古くから西脇、和歌浦、湯浅、有田で漁が行われ、貴重な水産資源の一翼を担う。県などが昨年、売り“顔”の感も。冷え込みが厳しくなる冬の紀伊水道。西脇漁港からシラス漁に同行した。

写真=出港する網船は2隻1組

3隻1組で船曳き網
 空が白み始めるころ漁は始まる。同乗させて頂いたのは西脇漁業協同組合、中村拓也さん(33)の「第十三孝栄丸」(9トン)。港で中村さんの父、佐太郎さん(66)と会い、乗り込ませてもらった。
 シラス漁は汽船3隻1組で行う。1隻が魚群探知機で魚を追い、網船2隻が1つの網をひく。網の名は通称「バッチアミ」。男性のズボン下に似ているから名付けられている。二里ヶ浜が広がっていたころは地曳き網が盛んだったが、今は船曳き網漁のみだ。
 午前7時。港から一斉に船が飛び出す。同漁協に所属している船は7組。明け方に港を出る姿は颯爽としている。
 住友金属の煙突が並び、背後から朝日が昇る。空は快晴で波はほとんどない。舵をとる拓也さん、その後に控える佐太郎さん。探知機の青い画面に見入る表情は真剣だ。
 「だいぶん下がっちゃあるなあ」
 声をそろえる2人。秋から冬にかけシラスは水面近くにいる。しかし、この日は水深9〜10メートルに群れが見られた。2人は探知機をにらみ、網を下ろすポイントを探す。拓也さんは探知機を見ながら舵をとり、時折、海を360度見回し、忙しい。早くも網を下ろし始めた船が目に入る。

写真=シラスを一気にひきあげる

 袋網に残る澄んだ魚体
 「おるけどなあ」「これじゃ、しれてるな」。2人は意見を交わす。網船とも無線でひっきりなしにやりとりする。
 中村さんの家は代々漁師だ。佐太郎さんは1970年ごろ、父の信孝さんが身体を壊し、30歳をすぎて漁を始めた。長年、船を率いたが、佐太郎さんも10年ほど前に体調を崩し、拓也さんが大学を出て漁を継いだ。今は拓也さんが主となって漁を仕切る。佐太郎さんは携帯電話で他船に状況を聞いたり、網を下ろすタイミングをともに図ったりする。親子で1つの作業に打ち込む姿は胸を打つ。
 「よし、やれ、やれ!」と大きな声。網船に指示を飛ばした。岸から20数メートルといった所。意外と近いので驚く。
 西脇漁協の漁場は日御碕以北から磯ノ浦まで。シラスは北上する習性があるので、西脇沖で漁を行うことが多い。
 網を下ろした後も探知機で魚影を追い続ける。携帯電話での情報交換も絶やさない。獲れているポイントをキャッチしてすぐに移動するためだ。「細かい群れがあったからほりこんだら、すぐなくなった」「あるけどな、う〜ん」。この日は携帯電話でやりとりする声も今ひとつさえないようだ。
 シラス漁の漁獲量は天候にも気温にもあまり関係ない。「水ものです」と2人は笑う。
 網を下ろして約2時間。「そろそろ上げて他へ行こう」と船を、網船の1隻に近づけ1人をひろった。2隻のちょうど中央にある目の細かい袋網を上げる。目印のある所まで船を寄せてウインチできりきりと巻き上げる。かつてはこの作業も全部手でやったそうだ。
 小さいクレーンに網をかけ水面から引き上げると、水が網目から漏れ、中に大量のシラスが残った。それを船に備えつけた大きなオケの上に移動し一気に流し込む。どっとシラスが姿を現した。白く澄んだ魚体は美しい。中にはイシモチやホウボウが1匹ずつ見えたが、他は全部シラスだ。
 オケの底を抜いて25キロ程度が入るカゴにシラスを入れていく。この日獲れたのは6杯だった。「この季節はこんなもの」。佐太郎さんは「昔は100杯獲れたこともあった。当時は手作業やったから本当に大変やった」と振り返る。

写真=オケの底からシラスをカゴに入れていく

新鮮なシラス港ですぐ入札
 船を港に寄せ、カゴ入りのシラスを港に上げる。待っていた加工業者が吟味し入札を行う。 
 シラスは、加工業者がインターネットを使って販売するなどの努力で人気が高まっているが、他の沿岸漁業と同じく、漁獲量は減少傾向にあると言う。また、ここ数年の原油価格の高騰が追い打ちをかけ、厳しい現実に直面している。
 最後に漁師さんはどんな食べ方をするのか聞いてみた。「生かなあ。薬味と一緒にポン酢、わさび醤油で。軍艦巻きにしてもおいしい。生のまま天ぷらにしたり、みそ汁にいれてもいい」。ぜひ試してみたい。(12月6日、高垣善信)
 シラスはイワシの稚魚。カタクチイワシ、マイワシ、ウルメイワシなどがあるが、カタクチイワシの商品価値が最も高い。1年を通じて獲れるが、主な漁期は春と秋。西脇漁協では1月末までシラス漁を行い、2月、3月はイカナゴ漁に切り替える。