優秀賞 空を飛ぶネズミ
森本友紀さん(那賀高1)
昔々、空に憧れを抱いたネズミが居た。そのネズミは毎日毎日、飽きずに朝も昼も夜もまた次の日も空を見上げては、物思いにふけっていた。そして、鳥たちが楽しげに空を飛び回るのを見る度に、ネズミはありもしない羽を真似て短い両手を広げ、地面の上でくるくるくるくる回っては、気を紛らわせていた。「ああ、僕にもあの鳥たちの様に素晴らしい空へ旅出てれば」と、呟きながら。
ある日、ネズミが空を見上げながら昼食をとっていると、数羽の鳥たちが羽を休める為にネズミの近くに立っている大きな木の枝にとまってお喋りをしていた。それを見つけたネズミは、昼食を放り出して、鳥たちに質問をした。「鳥さんたち、鳥さんたち。ちょいと僕の質問に答えてくれないかい?」
すると、鳥たちはひょいと首を傾げて尋ね返した。「質問くらい答えてやるがね、ネズミ殿。私ら飛ぶことしか脳のない鳥が頭の良いネズミ殿の質問に、うまく答えられるかどうか」
「その飛ぶことについての質問なのだよ」
と、ネズミが嬉々とした表情で鳥たち全員の顔を覗き込んだ。はてさて、いったい何故ネズミが飛ぶことを?と、鳥たちは不思議そうな顔でネズミに注目した。
「君らは、一体全体、どんなふうにして空を飛んでいるんだね? 両手をバタバタしただけで、ああも簡単に飛べるものなのかね?」
「ああ、それは簡単だよ。こう…両手の羽を、バッサバッサさせながら全力で助走をするんだ。そして一気に踏ん張って…」と、鳥たちが言うと一斉に羽を羽ばたかせ空の彼方へと飛んで行った。ネズミは、ポカンと口を開けてその姿を見つめていた。
「なるほど…あんな簡単に飛べるのか!」
と、自信のついたネズミは、早速鳥たちの真似をする為に、この辺りで一番高い木の上に登り大声で叫びつつ両手を羽ばたかせながら飛び降りた。
「さあ、大空へ旅立つ時が来た!」と、その時、ザッと一匹の猫が弧を描きながらネズミの方へ飛んで来た。ネズミが、「あっ」と息を飲んだ瞬間、パクッと猫がネズミを空中でキャッチすると、そのまま地面に着地した。
「貴様、何をしておる」
「猫君、お願いだから僕をまだ食わないでくれ。先ほど鳥さんに、空の飛び方を教わったばかりなんだ。せめて一度だけでも空を飛ばせてはくれまいか?」
「空を飛ぶだと?」と、猫が嘲(あざけ)るような声で言うと、大声で笑い出し、言った。
「貴様、それは無理だというものだ。いくら鳥に飛び方を教わっても、ネズミには羽があるまい。高い木の上から、バタバタしながら飛び降りても地面に衝突して死んじまって終わりさ。そんな無駄死にするのならば、俺が貴様を食して、俺の昼飯になる方が無駄死にせずに済むだろう」
「なんてことだ、羽が無くては空も飛べぬのか」
「ああ、そうさ。だから貴様は俺が食してやろう…と思ったが、気が変わった。助かった恩を忘れず、無駄死にせぬようにな」と言うと、猫はそのまましっぽを振りながら林の中へと消えていった。
ネズミは、落胆した。羽が無ければ、どうもがいても飛べやしないのだ。ネズミは涙を流しながら両手を広げ、いつものようにくるくるくるくる空を見上げながら回った。空を見上げるのは、これで終わりにしようとしたのだ。その時、ネズミは足を挫き、回っていた勢いで後ろに倒れこんでしまった。
「痛っ……あ!」と、ネズミが叫んだ。そう、ネズミが倒れこんで見えたのは、目の前いっぱいの大空。目の前に広がり続ける大空を見て、まるで本当に空を飛んでいるような錯覚におそわれた。「そうか、空はこんな近い場所にあったのか」
それからというもの、ネズミは鳥たちが空を自由に飛び回っている姿を見つけると、それを真似て野原に倒れ込み小さな両手を広げて大空を飛び回った。
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ニュース和歌山主催「干支が主役!創作童話コンクール」の入賞作品を紹介します。
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審査員・山路幸子さん(おはなしボランティアきいちご)のコメント…作者が主張したいことがうまく伝わってくる。最後は私も空を飛んでいる気分にさせてもらました。