審査員 山路幸子賞 大晦日の冒険
多田怜小那さん (智辯小4)
森の奥の、小さな穴の入り口に、ねずみの子の顔が3つのぞいていました。でも3匹はとてもとても悲しそうな顔をしています。今日は大晦日。3匹は今夜、森を出て初日の出を見に行くはずでした。なのに、外はどしゃぶり。いつもはピンと張っているお父さんねずみのひげも、だらんと垂れたままなので、当分、晴れる見込みがない事を子ねずみたちもわかっていました。
「どうなるんだろう。初日の出、行けなかったら大変だ」
「初日の出を見ておかないと、ふくろうに追いかけられる1年になるんだよね」
「そんなの、いやだあ」
昔々、子ねずみたちがもっと小さかった頃、大好きな大おばあちゃんがこんな話をしてくれた事がありました。
「1年の、最初のお日さまを見るのはとても大切なことなんだよ。まっさらのお日様には、お前たちを守ってくれる力があるんだ。初日の出の光を浴びた1年は、あの恐ろしいふくろうにおそわれる事もないんだよ」
お母さんねずみは、
「大おばあちゃんは面白いことを言うわねえ」
と、本気にはしていない様子でしたが、子ねずみたちにはそれ以来、初日の出は特別なものになったのでした。
その夜、3匹の子ねずみたちは小さな頭を寄せて話し合いました。
用心深い茶ネズは、
「雨も夜の森も、ぼくはこわくないけどさ、2人ともこわいだろう? 今夜はうちでじっとしてるのがいいと思うな」
ちょっと強気な灰ネズは、
「へえ、そんなこと言ってお前がこわいんだろう。弱虫。おれなんか、こわくなあいよ」
かしこくてゆうかんな鈴ネズは、
「茶ネズは弱虫なんかじゃないわ。慎重なだけ。でも、初日の出を見ておかないと、この1年、ふくろうから守ってもらえないのよ。私は行くべきだと思うわ」
「でも…こんなどしゃぶりじゃ、お父さんもお母さんも行ってはくれないよ」
「内緒で出ていけばいいじゃん。みんな寝てしまったあとで、こっそりさ」
「初日の出が見える丘までは、このお天気だとずいぶんかかりそうね。私も出発に賛成」
ザアザアと外は、相変わらずはげしい雨の音がしています。はあ、と心配そうにため息をついた茶ネズにはおかまいなしで、灰ネズも鈴ネズも楽しそうに出発の準備を始めました。
雨の森は、思っていたよりも寒くて恐ろしいところでした。ぽつぽつと雨は弱くなっていましたが、目の前は真っ暗。3匹はふるえながら、くっついて歩いて行きました。と、上の方で、バサバサッと大きな音がしました。あまりの怖さに声も出ない3匹に黒い影が舞い降りて、あっと思った時にはもう、3匹とも鋭い爪に服をつかまれ、宙に浮いていました。
「こんな天気の悪い日に、ごちそうが3匹」
金色に光る丸い目玉をぎょろりと動かし、ふくろうは低い声で笑いました。
「ど、ど、ど、どうしよう…」
3匹の足元には黒々とした森が広がっています。雨はすっかりやんで、飛ぶように流れる雨雲。それと同じ速さでふくろうは3匹をしっかり爪でつかんで飛んでゆきます。
「巣に帰ったらゆっくり1匹ずつ食べてやるからな」
がくがくふるえながらも、鈴ネズはなんとか逃げる方法はないものかと一生懸命に考えていました。いつも初日の出を見る丘とその向こうに広がる海が、薄赤く染まってきたのが見えてきます。
「おっ、急がなければ太陽が……」
ふくろうがそう言った時、
“ピカーッ”
昇って来た初日の出の光が一筋、ふくろうの金の目玉を射抜きました。
「ギャ、ギャーッ」
目がくらんだふくろうの爪がゆるんだ一瞬、「今よ。体をゆすって」
鈴ネズ、茶ネズ、灰ネズは思い切り体を揺らしました。服にかかっていた爪がはずれ、
「うわあああ」
3匹は大声をあげて落ちてゆきました。そして、森で一番高い木のてっぺんにひっかかったのです。
「た、た、助かったあ」
「大おばあちゃんの言ったとおり初日の出に救われたぜ」
「すごいっ。きれいな眺め」
高い木のてっぺんから見る森は、初日の出の光に満たされ、豊かに輝いて見えました。3匹はいつまでも、いつまでも、その風景を見つめていました。
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ニュース和歌山主催「干支が主役!創作童話コンクール」の入賞作品を紹介します。
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審査員・山路幸子さん(おはなしボランティアきいちご)のコメント…非常によくまとまった話。最後に森が照らされる場面は、新年の明るさを感じました。