和歌山大学 土曜講座 
「ヒトが育つ関係づくり」

       
◇演劇が育てる対話力
      
 若い世代の表現力が衰えているという人がいるが、本当に問題なのは表現する機会、必要性が減っていることである。だから、この表現しなくてすむ社会では伝える技術を教えるより、伝えたいという思い、伝わらないという経験が必要だが、そのための実体験の機会を作ることには限界がある。そこで、演劇のような疑似体験で他者と接する経験、言葉やコミュニケーションの体験が必要となる。
 いいコミュニケーションとは言葉のうらにあるシグナル(気持ち)を汲み取ることである。特に教育・子育て・介護・看護・医療などにおいては、このコミュニケーション力が重要とされる。
 現在は成長型社会(みんな同じ価値観)から成熟型社会(価値の多様化)にかわっている。だから価値観が一致していくようにするコミュニケーションではなく、バラバラな人間が、どうにかしてうまくやっていくためのコミュニケーションが必要である。言い換えると協調性から社交性が必要となっている。
 つまり、分かり合うことを最終目標にするのではなく、分からない人間同士が共有できる部分を見つけ、広げていくことを目標としたコミュニケーションが大切なのである。
 「会話」とは知っている人同士の話し言葉であるが、「対話」とは異なる価値観をもった人との話し言葉である。一人ひとりの思ってもみない価値観が出た時、対話は起こる。対話こそが演劇の構造である。
 人口の流動性が少なく「分かり合う社会(文化)」であったのが日本であり、ヨーロッパなどは自分をきちんと他者に説明する必要がある「説明しあう社会(文化)」であった。しかし、これからの国際社会において日本は少数派である。だからこれからの日本人は対話力を身につける必要がある。
 演劇のコミュニケーションとはコンテクスト(劇作家、俳優、演出家それぞれの意図)をすり合わせること、つまりコンテクストの共有できる部分を見つけて広げていくことである。また、短期間に共有し合う技術を持っているのが演劇である。かつてのような地域社会の力がなくなった今、コミュニケーション力を育てる場のひとつとして演劇が必要なのではないか。
 (平田オリザ・劇作家・演出家、文責=児玉恵美子・和大生涯学習教育研究センター客員准教授)

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 和大とニュース和歌山は、毎月原則第1土曜に和歌山市西高松の和大生涯学習教育研究センターで土曜講座を共催しています。次回は2月2日(土)午後2時、テーマは「こねて、ぶつけて、通い合うこころ〜五歳でここまで育つコミュニケーション力」で、講師はアトム共同保育園園長の市原悟子さんです。