「ミーン、ミーン、ミーン、ジー」
せみの声を聞くだけで、よけい暑くなるっていうのに、家の母は何をやっているのだろうか?
物置きに頭を突っ込んで首からタオルを巻いて何やらゴソゴソとやっているのだ。
和室の窓からしばらくのぞいていると、どうやら探し物をしているようだ。いっしょに探してやろうかと思っていると大きなダンボール箱を引っぱり出しては中を見て、違うとまた次。次から次へと引っぱり出しているのだ。
と、次の箱を開けた時、動きが止まったので探し物が見つかったのかと思い、窓を開け、
「その箱、持ったろか? いったい何、探してんのよ」
と、聞いてみると
「探し物は、これと違うんよ。箱を開けてたら、昂輝の教科書が出てきたんで、何か懐かしてよ」
引っ越しの時、捨てたとばかり思ってた小学校の時の教科書をまだ大事にしまっていたのだ。
「俺も見たい!」
セッタを飛ばしながら外へ飛び出たものの、あんまり暑いので、箱ごと土間まで持って来た。
「小学校の事、思い出すやろ。毎日、聞いたでなあ、本読み。本読みカード書くの苦労したわ。うわっ、九九やで、お風呂の中で、何回も何回も言うたわな」
母の思い出話が何分続いただろうか。ぼくも走馬灯のように楽しかった思い出が母の話といっしょに頭の中をかけめぐっていった。
「来年から教科書を買わなあかんのやなー。お金を持って学校へ買いに行くんやで」
「えっ。えー。何、それ」
新学期になったら、当たり前のように先生が配ってくれて、名前を書いて使っていた教科書を買うという事が理解出来ないでいた。
子供は税金で年間、約90万円の教育費が使われている事などを教えてもらった。そして、年間を通して大会でお世話になっている県、市営プールも税金で作られていることを知った。
「子供は両親の力だけで育ってるんと違うんやで。みんなに育てられてるんよ。みんなが税金を負担する事で安心して暮らせ、勉強やスポーツが出来るんやで」
と言いながら、また片付けをはじめた。
みんなに買ってもらった教科書は、あと半年しか使えないけど、一生懸命に勉強しようと思うし、僕が大人になって働いて税金を納めるようになったら子供達が立派な大人になる為の教育を受けられるように恩返ししたいと思う。
子供達が自分の力を思う存分、発揮できるように、みんなで支えていかなければならないと思った。
(和歌山税務署長賞)