敢闘賞 子ねずみと黒ネコ
郷 美月さん(向陽高1)
そこは小さな森の中。小さな小さな子ねずみは、森の奥の大きな古い木の前におりました。“森の奥へ行ってはいけない。そこには大きな古い木があって、その木の穴の中には魔女の使いが住んでいる。会ったらたちまち食われてしまうよ”。そんな伝説を母親から聞いた子ねずみは、幼い故の好奇心からこっそり来てしまっていました。
「あっ、木の穴ってこれかな?」
木の根本にあった穴をひょこっとのぞいてみますが、薄暗くて何も見えないわけではありませんが、“魔女の使い”は見えません。
(留守なのかな?)
そう思って子ねずみは穴の中へ入って行ってしまいました。穴の中は少し暖かく、奥には黒い塊が一つ-----。
「…誰だい? アタシの寝所に入ってきたのは…」
かすれた声でそう言って、黒い塊は顔を上げました。小さな森の奥にある大きな古い木の穴の中、“魔女の使い”と呼ばれていたのは一匹の老いた黒ネコでした。
「君だぁれ?」
“ネコ”を知らなかった子ねずみは黒ネコに顔を近づけてたずねました。黒ネコは少し驚いたように目を見開いて、また眠たげに目を細めて子ねずみを見据えました。
「アンタ、“ネコ”を知らないのかい?」
「ねこ? “魔女の使い”じゃないの?
お母さんが言ってたよ」
「カカカッ! “魔女の使い”ね! 確かにアタシは長く生きてるし色々知ってるけど、そんな風に呼ばれていたのかい!」
高らかに黒ネコは笑いました。黒ネコの言葉にピンッと反応して、子ねずみは目を輝かせながら、
「色々知ってるって本当!? いっぱい知ってるの!?」
「!…ああ、そうだとも。どうしたんだい?」
興奮してシッポをブンブン振っている子ねずみの様子に驚きながら、
(変わった子だね…)
と黒ネコは心の中で呟きました。
幼い子ねずみには知らないことがたくさんありました。いつもは母親にきいているのですが、教えてくれないこともたくさんあったのです。子ねずみの次から次へと出てくる質問に、黒ネコは一つ一つ答えてくれました。子ねずみはそれがうれしくてたまりませんでした、そして、ふと疑問に思ったことを口にしました。
「ネコさんはどうしてこんな所に住んでいるの?」
黒ネコは耳をピクリと立て少し黙った後、
「…昔の話だがね、この森にはアタシ以外のネコもたくさんいたんだよ。森中のみんな仲が良かった」
遠い昔を懐かしむような声でした。
「けどね、ある日、“ネコは不幸を持ってくる”っていう話が森中に広まったんだ。もちろんそんなのは迷信さ。今までそんなことはなかった。でも、みんなはネコを遠ざけて、森の奥へと追いやった。ネコ達は怒ってこの森を出て行った。アタシ以外のみんなね。アタシはこの森で生まれ、育った。他のみんなのように故郷を捨てたくはなかった…」
昔の話さ、と黒ネコは目を伏せて言いました。子ねずみはまだ幼くて、黒ネコの話をよく理解できませんでした、が-----
「じゃあ、ネコさん、お友達いないの?」
「そりゃいないさ。みんな出て行ってしまったからね」
子ねずみは一人ぼっちの寂しさは知っていました。だから、
「じゃあ今日から僕がお友達!」
そう言って、ピトッと両手を黒ネコの片手にあてました。黒ネコの本日何度目かわからない驚き。長い時を一人で過ごしてきた黒ネコに“寂しい”という感覚はとうの昔に薄れています。子ねずみが何を思ってそう言ったか予想できた黒ネコは、しかし子ねずみを突き放すなんてことはしませんでした。うれしいと、思ったことは本当で-----
「…この歳になって友達ができるとは思わなんだ…」
そう言って小さな幼い友達に笑いかけました。
それから、小さな小さな子ねずみは、毎日のように森の奥へと行きました。黒ネコからただ話を聞くだけでなく、自分の話や木の実などを手土産にして。
小さな森の奥、大きな古い木の穴の中、黒ネコはのんびりと待っていました。小さな小さな友達を。
今日はどんな話をするのでしょう。
◇ ◇
「干支が主役!創作童話コンクール」の入賞作品紹介は今回で終了します。
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審査員・松下千恵さん(わかやま絵本の会)のコメント…老人と孫との関係にも似たほのぼのするお話。こんな交流があちこちにあればと願います。