景勝地「和歌の浦」保全へ
和歌山県 名勝・史跡文化財に指定

            
 奈良時代、聖武天皇が「山に登り、海を望むに、此間(ここ)最も好し」と絶賛した和歌の浦。この景観を守ろうと、和歌山県は玉津島神社や鏡山など九カ所を含む地区一帯を、名勝・史跡文化財に指定した。9カ所以外の追加指定や、国指定へのランクアップも視野に入れており、地元からは「指定は景観を守る根拠になる。万葉ゆかりの地として豊かな歴史や自然を将来に伝えていきたい」と歓迎している。
◇追加やランクアップも視野
   
 和歌の浦は、景色の美しさに感嘆した聖武天皇が景観を守る守戸(しゅこ)を設置したり、万葉歌人の山部赤人が「和歌の浦に 潮満ち来れば 潟を無み 葦辺をさして  鶴鳴き渡る」を詠んだり、景勝地として古くから親しまれている。戦前は県の名勝指定を受けていたが、1956年の新文化財保護条例施行後は申請されず、指定されなかった。以降、新不老橋建設問題や建設物に高さ制限を設ける風致地区指定など、開発と保全の間で揺れてきた。
 今回、指定を受けたのは、奠供山、玉津島神社、天満神社、東照宮、妹背山と三断橋、芦辺屋・朝日屋跡と鏡山、御手洗池公園、塩竃神社、不老橋の9件を含む10・2ヘクタール。文化財や景勝地を個別に指定するのではなく、地区全体を指定したのが特徴だ。点在する文化財や景勝地、史跡などのバランスを考えて保存していく。
 指定のきっかけは、昨年(2007年)に計画された三断橋の石垣修復。県住宅環境課が行おうとしたことに対し、「史跡としての視点を無視した工事にならないか」と住民が危惧し、県文化審議会に相談した。この結果、県文化遺産課が中心となって工事を手がけることになり、修復に向け石垣の研究者である石川県金沢城調査研究所の北垣聰一郎所長を招いたところ、「国レベルで保存すべき」と評価。さらに文化庁からも調査官が訪れ、県は三断橋だけでなく景勝地、その周辺の景色の検証に乗りだし、指定に至った。
 新不老橋建設に反対し、同地区で景観をテーマにしたシンポジウムなどを開く和歌の浦フォーラムの多田道夫代表(和歌山大学名誉教授)は「結局、あしべ橋ができてしまったが、裁判で負けた時の判決理由の一つが『文化財指定がない』というものだった」と振り返る。「景観や観光立国が叫ばれ、ようやく指定されたことに時代の流れを感じる。今回の指定は、開発されてしまった所を、元の昔の景色に戻していくきっかけになる」と意義を語る。
 和歌の浦万葉薪能の会の松本敬子代表も「指定により景観が保護され、素晴らしい和歌の浦の魅力を次の世代に伝える力になる」と歓迎する。また、昨年地区のマップを作ったみちしるべの会は、今年秋に指定を記念したウォーキング会を企画、指定地を重点的に巡るコースも考えている。
 県は「地域全体でバランスをとりながら景観保全に取り組んでいく。保存への方向性を示す取り組みとして管理計画を立てていきたい」との方針。多田代表は「干潟越しに見える大きなパノラマも和歌の浦の風景の一つ。布引や対岸の景観も意識しながら、今後の指定を期待したい」と展望を話している。

写真上から=不老橋を背に「時代の流れを感じる」と多田代表、歴史を感じさせるたたずまいの和歌浦天満宮

……………………………

 このほか、新たに指定された県指定文化財は九件で、計524件になった。指定されたのは次の通り。建造物=名手八幡神社本殿(紀の川市)▽美術工芸品=三彩狛犬(広川町)、日光社参詣曼茶羅(有田川町)、鰐口(那智勝浦町)、梵鐘(同町)、木造熊野十二所権現古神像(同町)▽天然記念物=龍神宮のウバメガシ(田辺市)▽有形民俗文化財=保田紙の製作用具(紀伊風土記の丘所蔵)▽無形民俗文化財=野田原の廻り阿弥陀(紀の川市)。