和歌山大学 土曜講座
「和歌山・地域再生へ」

       
◇顧客志向と観光振興
      
 日本中で、観光振興が流行語のようになっています。地域活性化の起爆剤として期待されているのです。ここで問われるのが、旅行者・観光客の視点に立った行動ができるか、すなわち顧客志向を実現できるか、という課題です。
 高度成長の時代には、売り手側の論理を振りかざしていても特段の問題はありませんでした。しかし、社会が成熟化すれば、それは通用しなくなります。顧客が真に欲するものを提供できない組織は、ジリ貧に陥るのみ。時代の変化に取り残されるとは、顧客の変化に乗り遅れるということにほかなりません。
 難しいのは、ニーズが思うように把握できないことです。人間は自分自身の考えを伝えることが上手にできません。無意識的に、うまく言葉にできない事柄があると気持ちが悪いため、わかりやすい言葉で適当に代用して、自分自身を納得させてしまうのです。だから観光客にいきなりニーズを尋ねても、とおりいっぺんの答えしか返ってこず、情報としては役に立ちません。この難問の解決法は、顧客の視点に立って真剣に考えること以外にないのです。
 観光を取り巻く環境は激変しました。傾向として、団体旅行の衰退、個人旅行の増加があげられます。また、激安バスツアーのようなこれまでとは別種の団体旅行が目立つようになったり、諸外国からのツアー客も存在感を増してきています。旅行者・観光客が多様化しているのです。
 これからの観光振興に求められるのは、対象の明確化です。誰でも着られるフリーサイズの服は、裏を返せば誰にもフィットしない服です。それぞれ違うニーズを持った多様な観光客がいます。八方美人では、真のニーズに応えられません。思い切り対象を絞り込むと、案外いろいろなことが見えてくるはずです。
 もうひとつ重要なことがあります。わざわざ自分に不利なルールで勝負に臨む必要はないことです。京都や東京の真似事をしても仕方がありません。自分に有利な、勝てるルールは何かを考えてみましょう。そのためには、まず自分自身をよく知ることです。せっかく訪れてくれた観光客に、自分の町の自慢できるものを満喫してもらいたい。しかし残念なのは、自分の町のことを知らなさすぎるという人が、あまりにも多いこと。旧来型の上からの観光振興策で抜け落ちていた問題です。
 地域の住民ひとりひとりが観光客の視点を意識できる、そのような観光振興が求められているのです。
 (佐々木壮太郎 和歌山大学観光学部准教授)

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 和大とニュース和歌山は、毎月原則第1土曜に和歌山市西高松の和大生涯学習教育研究センターで土曜講座を共催しています。次回は6月7日(土)午後2時、テーマは「食と農をめぐる問題状況と農山村地域における着地型観光の可能性」で、講師は観光学部の藤田武弘教授です。