未来栽培 私の農スタイル 棚田に実る消費者との交流
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峯本稔さん(55)
            
 海南市南東部、黒沢牧場に近い海老谷地区。棚田広がる静かな集落に、慣れない手つきながら田植えを楽しむ家族連れや老夫婦ら都市住民の歓声が響く。5年前、集落の農家約20軒が県内で初めて「棚田オーナー制度」を導入し、米作りにふれてもらう試みを始めた。中心メンバーの峯本稔さん(55)は「みなさん喜んで帰ってくれますし、私たちも消費者の生の声を聞ける機会になっている。『お米おいしかった』の声が何よりやる気にさせてくれるんです」。消費者との交流が生産意欲につながっている。
    
◆ 海南市海老谷でオーナー制度展開
    
 急斜面を利用して階段状につくられた棚田が美しい海老谷地区。田んぼの周りでかえるを捕ったり、虫を追いかけたり。そんな子ども時代を過ごした峯本さんは、中学校に入ったころには家の農作業を手伝っていた。「学校から帰ってくると、『勉強より先に手伝え』と言われましたね」。農業は生活の一部だった。
 吉備高校柑橘園芸科卒業後、農業の道へ入った。「当時、父は『収穫用のかごにみかん一杯あれば、ええ日当になる』とよく言っていた。作れば売れる。今考えればいい時代でした」
 農業をとりまく環境が変わり始めたのは減反政策が始まった1970年。農業従事者の高齢化も手伝い、放置される田が増え、みかんや柿、野菜への転作も進んだ。地区内の米の耕作面積はピークだった65年ごろに比べ、ここ数年は半分ほどになっていた。

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 高い位置にある田から下へ順に水が送られる棚田の場合、田自体が用水路の役割を担う。しかし、途中の田の耕作が放棄されると、「雑草が生い茂り、うまく水が行き届かなくなる。病害虫の発生源にもなるんです」。“結びつき”が重要な棚田にとって、放置田の増加は大きな問題だった。
 海老谷地区に限らず、平坦な耕地が少ない中山間地域は、全国的に担い手不足、作業の効率の悪さから耕作放棄が問題になっている。一方、この地域の田を守ることは、洪水や土壌浸食防止につながるため、国は2000年から「中山間地域直接支払い制度」を開始、5年以上農業を続ける人に交付金を出している。
 海老谷地区では02年、地区内約20軒の農家で協定を結び、交付金を申請した。交付は公益的な取り組みを行うことが条件となっている。田の周辺に花や桜を植える案が出る中、三重県熊野市紀和町や奈良県明日香村などが始めていた棚田オーナー制度に着目、翌03年に導入した。
 初年度は和歌山市や大阪府、兵庫県の10グループが集まった。各グループに約100平方メートルの田を割り当て、5月に田植え、9月に稲刈り、10月に脱穀と、米ができるまでの一連の流れを体験してもらう形にした。
 参加するのは、子ども連れの家族、定年後の夫婦、20代の友人同士など様々だ。「海老谷を訪れたみなさんの第一声は『環境のいいところですね』なんです」と峯本さん。棚田の景色も空気もすばらしい環境で1年間体験した後は、「土の感触が良かった」「地区のみなさんのもてなしで貴重な経験ができた」とうれしい感想が毎年届いている。

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 田植えや稲狩りに加え、春のたけのこ狩りや、冬のみかん・柿刈りなどでオーナーと交流を深める中で、多く聞かれるのが「私の田だけでも有機栽培できないか」「除草剤なしで作れないか」との要望。みかんや柿の新品種への率直な意見を聞かせてもらうこともある。「消費者の食の安全への関心が高まっていると実感する。こうした生の声は自分自身のこやしになる」。交流の中に大きな“収穫”があった。
 オーナー期間終了後、家庭菜園を始め、「野菜を育てるコツを教えて」「畑に敷くわらがほしい」と問い合わせてくる人も。結びつきが欠かせない棚田での交流は、生産者と消費者、中山間地域と都市部のつながりを深めた。
 今年(2008年)も5月25日に田植えを終えた。集まったのは過去最高20組。「リピーターも増えてきた。中には5年連続で参加してくれている人もいる。2、3年来てくれている人は植えるのもほんとに速いですよ」
 子どものころから見慣れた棚田の風景。「一番好きなのは、稲が実り、頭を垂れる秋。そのころはあぜ道に咲く真っ赤な彼岸花もきれいなんです」
 オーナーたちと迎える秋が今年も待ち遠しい。

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 農業で頑張る人々の様々な試みを毎週土曜号で紹介します。