夢舞台 北京へ
レスリング 湯元健一の挑戦(1)
    
家族と開いた夢の扉
    
 6月25日、東京・代々木第二体育館は異様な緊張感に包まれていた。北京五輪レスリングフリースタイル60キロ級の日本代表を決めるプレーオフ。湯元健一(23)は赤いユニフォームを着てマットに立った。
 5月3日にポーランドで行われた北京五輪最終予選第2戦で優勝し、この階級の出場権を日本にもたらした湯元は、この日の全日本選抜選手権を制すればその権利を自らのものにできた。しかし、初戦でまさかの敗退。北京出場者決定は、この大会を制したライバル高塚紀行とのプレーオフに持ち越された。
 第一ピリオド、互いの手の内を知り尽くした2人が探り合う。1分16秒、湯元が得意のタックルに入る。が、警戒していた高塚が間一髪かわす。そのまま両者ポイントなしで2分が終了、延長戦に入る。
 延長戦は審判の引いたボールの色で攻撃権を決定。攻撃権を得た選手が片足にタックルした状態から始められ、30秒以内にポイントを取ればそのピリオドを得る。運命の抽選、審判が引いたボールは、湯元の着る赤だった。試合再開わずか4秒後、湯元が落ち着いて高塚を倒す。第1ピリオド先取。湯元の目が一層厳しくなった。
 第2ピリオド、これを奪えば湯元の勝利。互いに攻撃の糸口を見いだせないまま迎えた1分41秒、動いたのは湯元だった。高塚の手をかいくぐり、伸ばした左手が左足をとらえる。たまらず尻もちをつく高塚。湯元にポイントが入る。
 残り13秒。最後の攻撃を仕掛ける高塚、隙を見せない湯元。「5、4、3、2、1…」。場内が観客のカウントダウンに包まれる。試合終了を告げるブザーが鳴り響く・・・。
 湯元はゆっくり観客席に向かい、両拳を突き上げた。客席ではレスリングの基礎をたたき込んだ父、鉄矢(43)が泣いていた。共に五輪出場を夢見、技を磨いてきた双子の弟、進一も涙で前が見えなくなっていた。
 「僕らのレスリングの基礎はオヤジ。僕らは双子で生まれ、2人でずっとやってきた。弟がいなかったら、ここまで来られていない。プレーオフはオヤジと弟が一緒にマットに立っている、そんな気持ちで戦った」
 夢の扉を家族と開いた。しかし、その道のりはどんな脚本家も書けないほど劇的だった。 (文中敬称略)

写真=プレーオフ第2ピリオド、湯元のタックルが決まる

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 北京五輪に出場する和歌山市出身の湯元健一選手の歩みを8月13日号まで4号連続で紹介します。