35年ぶり 長距離走挑戦
中途失明の井邊光治さん

            
 視覚障害を持つ和歌山市井辺の井邊光治さん(53)が2008年10月26日(日)に開かれる「和歌浦ベイマラソン」をめざし、練習に励んでいる。県和商(和歌山県立和歌山商業高等学校)時代、全国高校駅伝に出場した経験を持つ井邊さんは、22歳の時に交通事故で視力を失った。長距離レースに参加するのは約35年ぶりで、今回は2人の伴走者と共に10キロの部に挑戦する。井邊さんは「高校の時はしんどいばかりだったが、今は毎日の練習に爽快感がある。少しでも早くゴールし、県和商時代のチームメートに自慢したいですね」と意気込んでいる。
     
※伴走者と和歌浦ベイマラソンへ
     
 井邊さんは中学1年から陸上競技を始め、県和商時代は5000メートルを中心に取り組んだ。2年の時には全国高校駅伝に出場、アンカーとして京都の都大路を駆け抜けた。
 卒業後に就職し、陸上競技から離れた。22歳の時、交通事故で失明。翌年、同市府中の和歌山県立盲学校に入学した。鍼灸師資格をめざす一方、高校時代以来の陸上に汗を流した。ただ、「当時、外国では視覚障害者のマラソンもあったようだが、日本では聞かなかった」(井邊さん)ことから、短距離走に挑戦。3年の時には「全国身体障害者スポーツ大会」に出場し、ゴール地点の鐘の音を頼りに走る60メートル音響走で優勝した。
 26歳で鍼灸院を開院して以降は陸上競技から遠ざかった。転機が訪れたのは今年3月。視覚障害者につきそってマラソン大会に出場する伴走者の講習会が県内で初めて開かれ、顔を出した。そこで、同じ視覚障害を持つ人が、橋の欄干に白杖をふれさせながら走ったり、杭に結んだロープを頼りに円を描くように走ったりと、工夫しながら練習に励んでいることを知った。「自分にもできないことはない」。早速、杭とロープを使う円周走で練習を始めた。
 毎日、約1時間トレーニングを重ね、走れる距離、時間が延び始めた7月、和歌浦ベイマラソンへの挑戦を決めた。ただ、出場するには、段差や上り下りなどコースの状況、周囲を走る他のランナーの位置を伝えながら走る伴走者が必要となる。視覚障害者マラソンの先輩で県立盲学校教員の野尻誠さん(34)を介して探したところ、和歌浦走友会の土井浩さん(50)と大阪体育大学4回生の田中裕理さん(21)が協力を申し出た。
 田中さんは以前参加した大会で伴走者を見て関心を持ち、3月の伴走者講習会に参加。今回が初の伴走となる。「いつもは自分の記録を目標に走っていますが、今回は自分が走ることで役に立てる。井邊さんの完走をめざし、しっかり走りたい」
 一方、土井さんはフルマラソン約40回、100キロを走るウルトラマラソンの経験も持つ。伴走は2度目で、「魅力は自分のレースに比べ、ゴールしたときの喜びが2倍になること。緊張感はありますが、やりがいも大きい」と強調する。
 野尻さんによると、大阪や京都、県内では田辺市に伴走者のボランティアグループがあるが、和歌山市にはない。「田中さんのように若い方が協力してくれると、今後の広がりにつながる」と歓迎。「伴走者と共に、マラソンに挑戦する視覚障害者が1人でも増えてくれれば」と願う。
 大会まで1カ月を切り、井邊さんは「今は期待と不安の両方。制限時間の90分以内にゴールできれば」。さらに「自分が走ることで、マラソンに挑戦する視覚障害者が他にも出てきてほしいし、伴走者のグループが和歌山にもできればうれしいですね」と期待している。

写真=支柱に結んだロープを頼りにトレーニングに励む井邊さん