ジョブ魂
和歌山グルーミングカレッジ講師
佐久川敦子さん
(52)

犬への愛情 何よりも

 「もうすぐ終わるからね」「ワンちゃん、かわいくなってきたよ」。優しく犬に声をかけながら、真剣なまなざしでハサミを握る生徒たち。和歌山唯一のトリマー養成校、和歌山グルーミングカレッジ(和歌山市園部)で指導にあたる佐久川敦子さん(52)は、これまで約300人のトリマーを育ててきた。大阪のトリマー養成校で働いていたが、大人数のクラス制度で周囲についていけず脱落してしまう生徒の姿に胸を痛め、1989年に夫と独立開校。きめ細かな技術や愛情の注ぎ方を教えている。今年度の生徒は本科と研究科合わせて15人。「『とにかく犬に優しく』と教えています。飼い主にとって家族である大切なペットを世話させてもらう。犬に対する愛情が何よりも大切です」 

飼い主の笑顔 生徒の喜びに

トリマーから講師へ

 出身は奈良県橿原市。幼いころから大の犬好きで、常にそばにいた。いったんは大学に進学したが、「手に職をつけたい」と20歳でトリマー養成校に入学。卒業後、ペットショップと動物病院で6年間働き、大阪府豊中市でトリミングショップを開店させた。
 大切なペットを預かり、きれいにシャンプーしてドライヤーを当て、流行のカットに仕上げる。飼い主の喜ぶ顔を見ることにやりがいを感じていたが、開店まもなく、友人の誘いで時間に余裕がある平日に天王寺のトリマー養成校の講師を始めた。慣れない手つきでもイキイキと犬に向かう生徒を見るうちに、「人に教えることも楽しいな」と感じ、店を廃業して講師業への転身を決めた。
 就職した養成校では一クラスの生徒数が40人。実習に欠かせないモデル犬が常に不足し、6〜8人で一頭を扱う状態だった。満足に練習できず、“落ちこぼれ”になってしまう生徒が出る。「たくさんの犬にふれ、特性や性格を知って接することが勉強になる。細かなところも指導し、途中であきらめてしまう生徒を一人も出したくない」。1989年、理事長を務めていた夫とともに独立し、夫の故郷である和歌山で「和歌山グルーミングカレッジ」を開校した。

悪い面も教えたい

 高校を途中で挫折した人やOLからの転職組など様々な生徒が集まる同校。一年間のカリキュラムでプロに育てる。
 入学したばかりの教室では犬をコントロールできずに苦戦する生徒たち。暴れる犬には口輪をつけるのが通常だが、「怖い思いや痛い思いをさせてはダメ。口輪をつけて大人しくさせても、その場しのぎで解決にならない。愛情を持って根気強く優しく接すること。犬は何でも分かっている」と指導する。自身も噛みつかれてケガをしたが、「それも経験のうちかなと思うんです」と笑う。
 「臭い、汚い、噛まれるの3K」と言われ、憧れと現実にギャップを感じ、辞める人が多い業界。学生のうちから良い面だけでなく悪い面も教えたいと、ペットショップで実習する際にはあえて店側にきつい仕事を与えるようリクエストする。「和歌山のタウンページを見ると、ペットショップの半分くらいは卒業生の店なんですよ」。先を見据えた指導が結果に表れている。

ペットは家族と同じ

 練習では同校で飼育する犬のほか、一般の客から預かったペットを生徒に扱わせる。価格を抑え、細かく指導して完璧な仕上がりにすることで頻繁に来店してもらい、犬には快適に、飼い主にはきれいになった愛犬をより大切にしてもらいたい。「わぁ、かわいくなった」の一言が生徒たちのモチベーションを上げる。
 利用者にとってペットは家族同然。だから人間と同じく、まもなく訪れるクリスマスや正月前の繁忙期は生徒をショップのアルバイトに送り出す。卒業を半年後に控えた生徒たちがだんだんと力をつけていく姿が頼もしい。「いつか独立して店を出すまで相談に乗ります。広い視野を身につけ、犬のスペシャリストとして活躍してほしいですね」

写真=客に引き渡すまで仕上がりをチェックして指導する

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 仕事への熱意、大人の本気をレポートする「ジョブ魂」。毎週土曜号1面、2面にかけて掲載します。 

※ニュース和歌山2009年11月14日号掲載