ジョブ魂
フライヤオーナーシェフ
山井忠治さん
(43)

老舗洋食店の味を守る

 ヘレカツやエビフライを揚げる油の音に、オムライスを仕上げるため手際よくフライパンをふるう音。昭和8年創業の老舗洋食店フライヤ(和歌山市広瀬中の丁)で、活気あふれる厨房の指揮を執るのは3代目の山井忠治さん(43)。「親、子、孫と3世代で足を運んでくれるお客さんも多い。めざすは“また行きたい”というより、“また戻ってきたい”と思ってもらえる味。自分の家のように顔を出してもらえる店にしたい」。どこか懐しく、ホッとできる“変わらぬ味”を提供し続ける。 

    
「変わらぬ味」…客の声を力に 

老舗の深さ

 子どものころから料理は得意だった。冷蔵庫にある材料で焼きめしを作ったり、余り物でオリジナル丼を創作したり。「本なんか見ない。見よう見まねでした」。おいしいとほおばる家族の笑顔が好きだった。
 社会人になり、美容師や製鉄所勤務などいくつかの職を経験した。飲食店を経営していた28歳の時に結婚。これを機に妻の実家が営む店を手伝い始めた。その店がフライヤだった。
 フライヤは幼いころ家族でよく訪れた店。オムライスやヒレカツを注文するのが楽しみだった。大人になってからもよく顔を出し、「こんな店できたらなあ」と思ったこともあった。
 店ではポン酢やタルタルソースなど、全て手作りしていた。「スーパーに行けば商品になって並んでいるものを一から作っている。それが驚きでした」。老舗の味の深さが新鮮に映った。洋食の道が自分の道だと直感した。

伝統の味を継承

 野菜の下ごしらえやケースで届く生肉の下処理と、一から勉強を始めた。長年、一人暮らしで自炊していたため、包丁の扱いなど基本的なことはできた。何より料理が好き。初代から受け継がれる伝統の味を貪欲に吸収した。
 店の命であるドビソース(デミグラスソース)も一年たたないうちに教わった。タンでスープを取り、焦がさぬよう丁寧に炒めた小麦粉やエスパニアと呼ばれるルウを加え、弱火で一日じっくり煮込む。客の評価は上々。食べ残しなく、きれいに返ってくる皿がうれしかった。
 人気メニューのヒレカツやエビフライ、コキールなど伝統の味を受け継ぐ一方、自分なりに変えたところも。定番のオムライスに加え、チキンライスの上にオムレツを乗せて愛情込めたドビソースをかける特製オムライスを始めたほか、自家製ドレッシングで味わう大根サラダや洋風カツ丼などを考案、メニューに厚みを加えた。
 以前は業者に依頼していた野菜の仕入れも、10年前から自ら市場に足を運んで行う。「一つは人とつきあいができる。もう一つはその方が安い」。仕入れ値が上がっても、価格は簡単に上げられない。といって質は絶対に落とせない。「できるのはコストを落とすことだけですから」。客のためには手間を惜しまない。

京都からの注文

 「京都までタンシチューを送ってもらえますか」。2年前のある日、一本の電話がかかってきた。宅配はしていない旨を伝えると、余命短い父親が以前暮らした和歌山で楽しみにしていた料理をもう一度味わいたいと話しているという。
 「朝は何時から営業していますか」と聞かれ、「11時ですが、あす9時に来て下されば用意しておきます」と伝えた。後日、その客から手紙が届いた。『お父さん、おいしそうに食べていました』。料理人として喜びと同時に、長く愛される店の歴史を実感した。
 「昔と同じ味やなあ」。そんな言葉をかけてくれる客は少なくない。「私が店に来る前に先代が亡くなっていたため、料理を直接教わっていない。だから常連さんたちに『昔のままや』と言ってもらえるのがありがたく、伝統を受け継ぐことができているという証明なんです」。長年のファンの言葉を胸に、多くの人にとっての思い出の味を守り続ける。

写真=店の命のドビソースに気を配る山井さん(左)

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※ニュース和歌山2009年11月21日号掲載