2010年の干支とらが主役の創作童話コンクール
優秀賞 
地底世界へ〜トラとミミズ
智辯和歌山小3年 端野翔太くん
 ある日のこと。気の弱いトラが竹林を歩いていました。すると枯葉が、かさっかさっと動きだしました。トラはびくっとしました。枯葉をどけてみようかな、それともにげようかな、と、トラはまよいました。おそるおそる枯葉をどけてみると、その下にはミミズがいました。
 「きみはだれだい」。トラが聞きました。「ぼくはミミズだよ。きみこそだれだい」「ぼくはトラだよ。きみは面白いすがたをしているね。いっしょにあそぼう」
 ミミズはびっくりしました。大きな体の、するどいきばを持った動物が、目の前でにこにこしています。「うん、いいけど…。どこであそぶ?」。ミミズが聞くと、「きみが決めてくれ」。トラはやっぱりにこにこして言いました。「じゃあ、地底世界であそぼっか」「えっ、地底世界って、どこだい」「地面の下、暗くて暖かい所だよ」
 トラは不安な気持ちでいっぱいになりましたが、「行く」と、言いました。気が弱いと思われたくなかったのです。「じゃあぼくが案内してあげるから、トラ君はあなをほっていってよ」「うん、わかった」。トラは一分間に十㍍ずつほっていきました。どんどんどんどん、九時間ほどほって、やっと広くて暖かい空間にあなはつながりました。
 地底世界はしずかで、広い所です。光るコケが天井にぎっしりついていて、ほんのりと明るくなっています。「わーい、やっと着いたぞー!」。トラとミミズは声をそろえて言いました。
 「ここでボール投げをしようか」と、ミミズが言いました。「じゃあ、ミミズ君が先に投げてよ」と、トラが言いました。「よし、いくよ」。ミミズは小さな体のばねを使って、思い切りボールを投げました。
 「速いな」。パシッ、と受けたトラは、うれしそうに力いっぱいボールを投げ返しました。「あっ…」。ボールは地底世界のはしまでいって、地面にあいていたあなからころがりおちてゆきました。
 「どうしよう」。あわててトラがあなをのぞくと、そこには地球の中心、マントルが広がっていて、ボールはマグマにプカプカういています。温度は二千四百度以上。あなからは、ねっきがふきだしています。トラは体ぜんぶが熱くなって、あせが出てきました。でも、「ぼくが取るよ」。トラはかくごをきめて、おそるおそるあなからうでをのばしました。でも、あとちょっとというところで、ボールに手がとどきません。
 「いっしょに取ろうか」。ミミズはにっこりし、ちょこんとトラの指先にのっていいました。「これで手をのばしてみてよ」。ミミズの勇気に、トラはおどろきました。トラはマグマの上に、用心ぶかくそうっと手をもってゆきました。トラの指先でミミズが体をのばし、ボールを引きよせようとした時、とつぜんマグマがはねて、「あっちっちっち」。ミミズの体が真っかにやけました。
 「ミミズくん!」。あなからうでをぬいたトラは、ミミズを頭にのせ、ものすごい速さで走り出しました。「早く地上に出て、手当てをしなくっちゃ」
 トラは九時間かけてほったあなを、全速力でかけのぼりました。つかれきって足が動きにくくなっても、ひっしで地上へと向かいます。あっという間に、トラはもとの竹林に出てきました。そこから池に走って、大あわてでミミズに冷たい水をかけてあげました。すると、赤くなっていたミミズの体が、すうっと元にもどりました。苦しそうだった表情もよくなっています。トラはホッとしました。そう、この池の水には、やけどを治すこうかがあるのです。
 ミミズがゆっくり起き上がっていいました。「ありがとう、トラくん」「どういたしまして。やけどがよくなってよかったよ。こちらこそ、地底世界へつれて行ってくれてありがとう」
 トラはにこにこしていいました。「『ありがとう』って、いい言葉だね」。トラとミミズは、かおを見合わせてにっこり笑いました。
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わかやま絵本の会代表、松下千恵審査員…トラとミミズの組み合わせがユニーク。ミミズがキャッチボールをどのようにするの?と思っていたら、“体のバネを使って”との発想がおもしろかった。ミミズを助けるために必死で走ったトラの優しさに感動しました。

ニュース和歌山2010年1月16日号掲載