 戦国末期、織田信長との合戦に敗れ、和歌山に落ち延びた本願寺教如が伝えたとされる胃腸薬「和歌保命丸」。江戸時代から「わかのうら」の愛称で親しまれ、製造する和歌の浦井本薬房(和歌山市和歌浦中)の社長は代々、養泉寺の住職を務める。戦後、全国に広がり、海外旅行ブームが到来すると「旅行にはみかん、梅干し、わかのうら」と言われるほど、広く認知されるようになった。
現在、17代目井本誓亮さんが会社を切り盛りする。薬事法の改正で約30年前、これまで入れていた24種の生薬を絞らなければならなくなり、胃腸薬としての効果が高い15種を選んだ。下痢や食あたりの時に飲めば約半時間で効果が表れるという。
他の製薬会社が風邪薬や塗り薬などを開発しているのに対し、井本薬房は和歌保命丸一本で勝負を続ける。強みは生薬の成分量だ。モッコウ、チョウジ、センブリなど貴重な生薬の効果を引き立たせるため、スッキリ感をもたらす制酸剤などを使わず、その分生薬の分量を多く配合している。誓亮さんの息子、弘司さんは「自然の物を余すところなく使っているので、副作用が少なく効果が高いと言われています」と胸を張る。
店頭では「代々飲んでいます」「わかのうらでないと」との声がよく聞かれ、京阪神や紀南からも「作りたてを」と寺へ買いに来る客もいる。「昔からずっと飲んでくれている人もいて、世代を超えて受け継がれています」と弘司さん。江戸時代からの根強いファンが会社を支える。
養泉寺では月に2回、法話を開き、近隣住民との心の結びつきを深めている。10年以上通っている人もおり、弘司さんは「仏の教えは心の薬。身体の健康だけでなく、心の健康も支えるよう、事業を続けてきました。商いに重きを置かず、常に飲んでくれる人を第一にしてきたことが長寿の秘訣。これからも品質を維持し、多くの人に安心と喜びを届けたい」。教如を救った人々の優しさが、今も薬を通して多くの人を癒している。
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創業100年以上の和歌山県内企業に“長寿の秘訣”を聞く「老舗魂」は第2、4土曜に掲載します。
※ニュース和歌山2010年8月28日号掲載
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