今年の正月号に掲載し、ご好評いただいた「純喫茶をたずねて」。第2弾の今回、新たに2店を取材しました。昭和40年代、「人口に対し、店舗数が日本一」と言われた和歌山の喫茶店。今なお輝き続ける名店を巡らずにはいられません。

パーラーファッション チューリップの花咲く

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 県庁前交差点から堀止に向かう国道42号に面する、年季が入った大きな青い看板。ドアを開けると、オレンジ色のチューリップランプに目を奪われた。ハート型のメニュー立て、洋館のような白い手すり。乙女らしいかわいさが漂っている。ママの南方文子さんは「何にもこだわりなんかないのよ」と笑う。

 オープンは1970年6月。翌年には市電が廃線となり、黒潮国体で街中は沸いた。窓ひとつない薄暗い喫茶店が多い中、心斎橋にあったフルーツパーラーのような明るい店にしようと、夫や友人と内装を造り上げた。ロゴマークは、Fをくずした形の帽子をかぶる女の子。友人が手描きしてくれたお気に入りだ。

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 コーヒーやジュースよりも、手作りの日替わりランチが人気。午後2時を過ぎたころには落ち着きを取り戻し、女性客たちが会話に花を咲かせる。

 20歳で結婚し、幼子を育てながらコーヒー1杯80円で店を始めた南方さんも73歳になった。そろそろ辞めたいと思うときもある。「けどやっぱり寂しいんよねぇ。毎日来てくれる人もおるし。あの人、雨風の中歩いて来て、もし閉まってたらかわいそうやなぁって…」とポツリ。

 ファッションにはきょうも満開のチューリップが咲いている。

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 和歌山市吹上3─1─34。午前9時半〜午後5時半。日祝休み。☎073・424・4745

 

喫茶ビーンズ 井戸水でいれる一杯

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 「リヨン、エル、コロナ、ゴンと、このへんも昔はたくさん喫茶店がありました。県庁関連の出前が多かったですねぇ」。県庁北別館近くの路地に、静かにたたずむビーンズは、まもなく80歳を迎えるダンディーなマスター、宮田耕作さんが妻と切り盛りする。

 井戸水を使った口当たりまろやかなコーヒーは一杯ずつ豆をひき、サイフォンで抽出。「コーヒーは香り半分、味半分」。何十年繰り返した手つきはなめらかだ。

 1980年、心斎橋の喫茶学校に通い、実家の料理旅館を改装して店を開いた。もとは駐車場だった名残りで、天井がやや低く、それが不思議と落ち着く空間に。アフリカ土産の木彫りやトルコのポットといった異国のオブジェとともに、宮田さんが撮影したナイアガラの滝など写真の数々がすっと溶け込む。

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 常連は男性客が中心で、定年退職後も足しげく通い、カウンターに腰を下ろす。糖尿病など体を気遣い、各テーブルに砂糖がわりの低カロリー甘味料を置いたり、卓上に老眼鏡をさり気なくしのばせたり、焼き立てのトーストをサービスしたり。随所に心配りが散らばめられている。

 喫茶店を営む醍醐味を「人生経験豊かな人が来て、色んな話をしてくれるのが面白いね」と語る宮田さん。達者な間は店に立ち続けたいが、旅にも出たいのが悩ましいところだとほほえんだ。

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 和歌山市雑賀屋町9。午前8時〜午後5時半。土日祝休み。☎073・422・5871

(ニュース和歌山2016年2月24日号掲載)