和大・中島敦司教授  防災への影響調査

 2011年9月の台風12号による紀伊半島大水害から5年。森林生態学が専門の中島敦司和歌山大学システム工学部教授は発生直後から那智勝浦町の棚田を調査し、土石流食い止め効果を確認してきた。「棚田は耕作地確保だけでなく、災害を最小限にとどめる先人の知恵。守ることが防災につながる」との思いを強くする。今後は、耕作放棄された棚田への植林が、防災面に与える影響を調査する考えだ。

 紀伊半島大水害では紀南を中心に土砂崩れや浸水で88人の死者、行方不明者を出した。中島教授ら和大関係者は、現地の棚田で土砂が止まっている光景をあちこちで目にした。

 棚田の多くは耕作が放棄され、草木が生い茂るため現状を見極めにくい中、古い航空写真で今年2月までに位置を特定した。土石流被害を受けた39ヵ所の谷を調べると、棚田がある21ヵ所中19ヵ所で土砂が途中で止まり、棚田のない斜面18ヵ所では10ヵ所で土砂が下まで到達。段々になった棚田に土石流防止効果があることを確認した。

160910_tanada 同町では、日当たりの悪い北向きや、土の層が5㌢ほどしかなく稲作に不向きな棚田を発見した。中島教授は「耕作でなく、防災目的だったのでは」と考えた。棚田のある地域で、「谷の田は耕し続けろ」「棚田は(多くの収穫が期待される下流からでなく)上流から造れ」といった言い伝えを確認した。

 棚田は県内各地に残る一方、耕作放棄地が多い。田には、稲を植え付ける作土層の下に、水を蓄えるため粘土質の床(とこ)と呼ばれる層がある。植林に転用し根が床にはると、そこから水が地中深くまで入り、土砂崩れしやすくなる。

 今後は、「根がまばらでなく密生していれば水を通さない」との仮定に基づき、棚田にびっしりと木を植えた場合の防災面への影響を調べる。また、高野山周辺で棚田調査に入る予定だ。ただし、保全は農業だけでは難しい。「例えば、棚田の上に太陽光発電システムを設置し、その下でミョウガやシソなど日陰植物を育てることも一つ。防災、観光、教育といった複合的な観点で」と考えている。

(ニュース和歌山2016年9月10日号掲載)