過疎化が進む紀美野町志賀野地区で古くから栽培、採取されてきた植物を活用し、地域の再生を図ろうと住民が動き始めた。かつて盛んに生産され、化粧品などの原料になるハゼノキの一種「ブドウハゼ」、豊富に自生するコウゾやトロロアオイで作る「志賀野和紙」を地区の顔にしようと目指す。プロジェクトを進める志賀野さみどり会の藤垣成行会長(68)は「ブドウハゼは閉校した小学校の校歌の中で歌われ、地域のシンボルだった。和紙と合わせ、新たな産業をつくり、過疎対策につなげたい」と語る。

 

紀美野町志賀野地区〜新産業創出で人口確保図る


 同地区は2015年の国勢調査で人口418人、65歳以上は43・8%と全国平均の26・6%を上回り、住民には過疎への強い危機感がある。2年前に和歌山県と協議を始め、地域産業の確立が必要との話が出た。

 『野上町誌』によると、ブドウハゼは江戸時代に九州から持ち込まれたハゼノキが突然変異したもの。日本で長く使われてきた照明、和ろうそくにとって良質な成分を多く含むため、盛んに作られた。だが、1950年代中ごろから洋ろうそくが台頭し需要が減少。柿や柑橘類に切り替える農家が増え、栽培が途絶えた。

 しかし近年、ハゼノキから取れる木ロウが化粧品や自動車用ワックスの原料として需要が高まっていることから、定年退職した住民が2年前、復活に向けた取り組みを始めた。

 潰﨑(つゆざき)峰和さん(67)は冬を迎える前、山中に自生するブドウハゼから種を収穫、挿木を半年かけて耕地に移した。しかし、昨春、種3㌔と挿木200本から育てた苗が全滅。今年、苗木を水に3日ほどつけてから畑に移してみたところ、70本程度が20〜80㌢まで伸びた。「ブドウハゼの実は手で簡単に摘め、力の弱い高齢者や農業の初心者でも難しくない。かさばらず運搬も容易。休耕地などに植えてもらえれば」

 同じく栽培を進める井上豊さん(67)は「ハゼの紅葉がある風景を取り戻したい。観光に来て美しいなと思ってもらえるようになれば、それも資源になります」。5年後には地区内で1500本の栽培を目指している。

 一方、新たな地域ブランド〝志賀野和紙〟の生産に向け準備を進めるのが、工房あせりなの西森三洋さん(48)だ。大阪出身で富山、新潟の和紙工房で学び、福島で独立。結婚を機に今年、志賀野に工房を構えた。

 同地区には和紙の原料のコウゾやトロロアオイが自生する。和紙に適したものを充分に確保するため、来春から本格的に近隣住民にも栽培してもらう予定で、収穫まで2〜3年をみる。紙すき体験や和紙を使ったうちわ作りの指導もする西森さんは「今年の冬、自宅で試験栽培しているものを使って試作します。この地域は水がやわらかく、繊維の細いヒメコウゾが自生している。他の産地とはひと味違う独自のものが生み出せるはず」と意気込む。

 行政はこれらの活動を支援。県は「過疎集落支援総合対策事業」に選定し、紀美野町は内外に取り組みを紹介することで地域間の交流、移住者増加を促す。同町まちづくり課の浦円香さん(31)は「過疎対策には人が人を呼ぶ循環が必要。地域産業を柱に人を呼び込み、コミュニティを育てていく」。藤垣会長は「時間はかかるが、仕組みづくりが大事。確立すれば農閑期の冬にも収入を見込める。自分たちの力で稼ぎ、一定の人口を維持していける地域にしたい」と話している。

写真=ブドウハゼの試験栽培に励む潰﨑さん

(ニュース和歌山/2017年9月9日更新)