生徒が自ら考え、支え合う「学び合いの授業」の研究が進んでいる。2020年度からの新学習指導要領に盛り込まれた「主体的、対話的で深い学び」実現を目指す動き。和歌山市教委は中学校で「学びの共同体」という取り組みを導入、今年度は全18校を研究校とした。教師が講義、板書をせず、黒子に徹する形に異論はあるが、従来の学びを問う一石となっている。

受け身の学習から脱却を

 「学び合い」は様々な手法がある。同市教委が導入を図るのは学習院大学の佐藤学教授が開発した「学びの共同体」だ。

 「学びの共同体」は「学校が一人残らず子どもの学ぶ権利を実現する」が基本理念。授業では生徒を4人1組にし、教員が課題を記したプリントを配り、一人ひとりが取り組む。全員で課題に向かうグループ学習と違い、教え合うことを指示せず、分からない生徒がグループの人に尋ねる自発性を重んじる。課題は教科書レベルと一歩進んだ内容を用意し、最後に生徒が発表。教員は問いを重ね、生徒の思考を促す。

 同市教委は3年前に3校をパイロット校とし、推進。今年度は市内全中学校を研究校とした。

 東和中はパイロット校の一つ。「学びの共同体」ではすぐに4人1組になれるよう生徒の机を教壇に向かい、コの字型に配置する。「これだけで生徒に落ち着きが見えました」と当時東和中校長だった東方美喜夫・河西中校長。現場の教員に理解を求め、授業もすべて「学びの共同体」方式に。この3年で「授業中に歩き回る子、眠りこける子はいなくなり、全員が授業に参加するようになりました」と成果を語る。

 西脇中もパイロット校として進めた。北垣有信校長は「学力的な成果はまだだが、人間関係は穏やかになりました」と言い切る。同中で授業研究を行う赤松薫教諭は「答えをもらえるまで硬まっている子はまだいますが、普段接点のない生徒同士が教え合う姿を見ます」と言う。「より思考を促す課題を心がけてから手ごたえを感じる。1年から3年までこの形でやれたら学力は上がると確信しています。多くの先生に試みてほしい」

 市内の中学校は教員同士が授業を見せ合う研究授業が少ない。しかし、河西中では若い教員が中心となり研究委員会を立ち上げ、西脇中でも毎月1回各学年で公開授業を行う。北垣校長は「公開授業の文化が生まれただけでも大きい。こういうことの積み上げがあってこその学力向上」と話す。

 ただ教師間では「先生はやはり教えたい。一斉授業をやめるのは抵抗がある」「先生が気持ちよく教えることと生徒が考える力をつけるのは別」と賛否が分かれ、学校間での温度差もある。保護者からも「先生が教えないで授業になるの?」と疑問の声が届く。

 各校では今後3年、研究が進む。市教育研究所の市川圭造所長は「様々な意見があるが、従来の一斉授業のままで良いと考える教員は少ない。良さをどう取り入れるかが課題で、教員が自らの授業を見直し、発展させるきっかけにまずなれば」と展望している。

写真=西脇中での公開授業。佐藤教授もアドバイスした

 

「一人も見捨てず、全員達成」

亀川小学校 橋本和幸教諭〜『学び合い』の授業展開

 亀川小学校(海南市且来)の橋本和幸教諭は上越教育大学の西川純教授が提唱する『学び合い』の形で授業を展開する。「学びの共同体」(上に詳細)と違いはあるが、同じく教師は講義せず、子どものつながりを軸に授業をつくる。10月には「『学び合い』和歌山の会」を発足、児童の生きる力を育む。

 「一人も見捨てず全員達成!」。4年生理科の冒頭、授業の目標を全員で唱える。橋本教諭が語る。「社会に出ると、一人でできないことがたくさんあると分かります。側の人に『教えてください』と言える力がいります。分からないことは聞き、困っている人がいたら声をかけよう。力合わせて頑張ってください」

 何も説明せず、課題が記されたプリントを配る。「空気を温めると体積が大きくなり、冷やすと小さくなることを実験で全員が確かめ、結果を説明できること」。子どもたちは実験にとりかかる。

 橋本教諭は教師13年目。スタートは大阪で、6年で和歌山へ戻った。その後、大阪時代の教え子が中学で孤立し、問題を起こしたと知った。「小学校では仲良くやれてたのに…」。児童のつながりはどう保てるのか、悩む中で『学び合い』を知った。この2年間は上越教育大大学院で西川教授に学び、今春、亀川小に着任した。

 この日は実験のため、班に分かれたが、普段は自由にグループを組んでもいいし、一人でもいい。教師は、児童の動きを全体に見えるような声かけをし、理解した児童、班をつないでゆく。

 課題の内容にはほぼ触れず、橋本教諭は「助けてもらえるよ」「聞いてもらえるよ」と児童の間を歩く。児童同士で教え合いが進み、いい動きは積極的にほめる。「自由にすると、好きな子同士で組み、一人の子も出ますが、普段の姿が教室に現れる。授業しながら学級づくりができます」

 現在、橋本教諭は4〜6年の理科担当で、他県からの見学も多い。「子どもたちに任せて大丈夫?」と一部からは疑問の声もあるが、同校の土居久起校長は「聞く、話す、書く要素があり、いい面は見える。今は課題がないか見守る段階。生かせる部分をどう生かせるか考えたい」と話す。

 橋本教諭が立ち上げた「『学び合い』和歌山の会」は教員同士が自由に話す会で、開催は2ヵ月に1度。橋本教諭は「学力が向上するとの研究もあります。子どもだけでやれる力を持つことは子どもの幸せにつながる。和歌山の人ももっと知ってほしい」と望んでいる。

(ニュース和歌山/2017年12月2日更新)