『星めぐりの町』1月公開

 かつらぎ町出身のベテラン俳優、小林稔侍さん(76)。2000年に高倉健さん主演『鉄道員』で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞するなど、映画、ドラマの名脇役として欠かせない存在だ。俳優生活57年目を迎える今年、初めて主演を務めた映画『星めぐりの町』が公開される。1月27日(土)の初日を目前に、小林さんに話を聞いた。

人生は出会いから

──1962年に俳優デビューし57年目ですね。

 「17、18歳のころ、だれしも将来について考えるじゃないですか? 僕の場合は経済的に親孝行したい、親に家を買ってあげたいと。典型的な昔の若者でした。それで映画雑誌でしか知らないけれど、役者を目指し、東映のオーディションを受けたら合格したんです」

──「いつか映画で主役を」と大きな夢を抱いていたころでは。

 「いや、そのころは『こういう俳優になりたい』『こんな役をしたい』とか全く思わなかった。演技経験がなく、それ以前に標準語を話せない…。〝銀座〟を〝ぎんだ〟って言って笑われたくらいだから。演技の授業が終わった後、僕だけ『あいうえお』の発声をしたり、方言を直す補習を受けたりですよ。だから主役がどうとか考えたことがないどころか、『この世界でやっていけるか?』と思いながら続けてきましたね」

──2時間ドラマでは主演されているだけに、映画で初めての主役というのは意外でした。

 「脚本家であり、監督、プロデューサーである黒土三男さんとのめぐり逢いのおかげです。彼がたまたま僕を導いてくれました。今回の作品の中でも、東日本大震災が原因で心を閉ざした少年が、私の演じる豆腐屋と出会って変わっていきます。人生は出会いから全て始まるんです。出会いが生きる力になって、素晴らしい人生を約束してくれると、そんな思いで日々、撮影にのめりこんでいました」

 

年輪のある役を

──今年は初主演作を含め、出演映画3作と目白押し。ますますこれからの活躍が楽しみです。

 「老醜を武器に、最後まで俳優業を務めたいと思っていますよ(笑)。若くはなれないんだから、今後は若者から『オレもあんなジジイになりたいよ』と思われるような年輪のある役を演じたい」

──和歌山を舞台にした小林さんの主演作を見てみたいです。

 「和歌山のにおいは、そこで産声を上げたやつじゃなきゃ分からないですよ。遠い海から、生まれ故郷の川に帰ってくる魚もいる。故郷には目に見えない魂みたいなものがあるんでしょうね。和歌山県人の心意気を故郷で演じられれば役者冥利に尽きますよね。今後、そんな機会にめぐり逢うことがあれば、ニュース和歌山さん、また宣伝してくださいよ(笑)」

──もちろんです。まずは『星めぐりの町』の成功、お祈りしております。

 

小林稔侍…1941年、かつらぎ町生まれ。笠田小学校、和歌山大学附属中学校を経て、笠田高校卒業後、オーディション「東映ニューフェイス」に合格。60〜70年代中ごろは東映のアクション映画、任侠映画を中心に活動。その後、映画『新仁義なき戦い』『学校Ⅲ』、ドラマ『はね駒』『HOTEL』『税務調査官・窓際太郎の事件簿』など出演多数。今年は映画『不能犯』『家族はつらいよ3』でも熱演する。

 

『星めぐりの町』

 

 小林演じる主人公の島田勇作は、愛知県豊田市で豆腐店を営む。ある日、亡き妻の遠縁に当たり、東日本大震災で家族全員を失って心に大きな傷を負った少年、木内政美と暮らすことに。静かに見守り続ける勇作に心を開き始めた政美だが、一人で留守番していた時、大地震が発生。あの日の恐怖がよみがえり…。

 監督は2005年の『蝉しぐれ』以来、13年ぶりにメガホンを取った黒土三男。共演は壇蜜、高島礼子、平田満ほか。1月27日(土)から全国公開。近畿では梅田ブルク7、なんばパークスシネマなどで上映される。詳細は同映画HP


(ニュース和歌山/2018年1月3日更新)