城下の女性 受け継ぐ美

 童謡『鞠と殿様』に歌われ、和歌山の伝統工芸品として知られる「紀州てまり」。和歌山市内の土産品売り場では今も根強い人気があり、若い人や外国人観光客には小さいサイズのものをまとめ買いする人もいるそうだ。城下町和歌山で連綿と伝わる紀州のてまりの美を守る人たちの横顔にふれた。

 紀州てまりは、紀州藩の女官が姫のために作り始めたといわれ、昔は母親が嫁ぐ娘に持たせた。「丸く収まるように」「子孫繁栄」の願いが込められ、祖母から母、母から子へと受け継がれ、家族を通じ現在へ伝わる。

 紀州御殿てまりの青木瀑布美(たきみ)さん(72、写真)も小さい時に祖母に作ってもらい、趣味にし始めた。1971年の黒潮国体時には選手への土産にするてまり作りを母と教え回った。国体後、選手から「可愛いからほしい」との声が寄せられ、土産品の協会が製作と販売体制を整えた。

 当時は物産展、各種団体の地方大会、首長の海外土産にと依頼は次々と入った。てまりを座布団に据え、ケースに品よく収まるのが御殿てまりの持ち味で、「和歌山のてまりは温暖な気候のせいか、色合いが温かく、明るくて可愛い」と微笑む。

 多い時には16人いた御殿てまりの作り手は現在6人。急な注文に対応するため、約200個の在庫を常に目指す。海外へのホームステイ土産など国際交流関連が多いが、ドイツの企業から「社員がリラックスできる」と30個の注文もあった。

 時間があれば、黙々とてまりを作る青木さん。「ああしてみよう、こうしてみようと少し違うものを作るのが楽しい」。作り手の減少には「必ずだれかが現れると思いますよ」と心配はしない。

 一方、一般を対象に教室を開くのが紀州てまり工房さゆ紀の宮脇俊美さん(71、写真右)だ。手芸が好きで、宮脇さんはてまり作りに憧れていた。93年にみその商店街の催しで教室が開かれ、てまりの技を田辺市で再興した故久山雪雄さんに教えを受けた。

 久山さんから教室を受け継ぎ、現在は同商店街で第1・3水曜午後に開く。初心者は基礎かがり(縫い方)を10個覚え、その後は創作を自由に楽しむ。イベントにも出品し、年末には新年の干支を柄に作るのが恒例だ。有田市の女性(37)は「祖母の影響で学生時代から作っています。誕生日に贈ると、喜んでもらえます」。和歌山市の南方千鶴さん(71)は「自分なりの色を選ぶ糸あわせが楽しい。綿から球にする作り方を伝えたい」と笑う。

 2015年の紀の国わかやま国体・大会の時は、和歌山市から9000個の製作協力を求められ、製作と地域での講習を担った。「選手がかばんにつけてくれ、うれしかった。触れてもらえる機会があれば協力していきたい」と力を込める。

 和歌山市観光土産品センターは「てまりはずっと人気で、最近はひな祭り前によく売れます。手作りのぬくもりが伝わるのがいいのではないでしょうか」と話している。

(ニュース和歌山/2018年1月13日更新)