今夏 スタッフ常駐の分室 生活者目線で地域再生探る

 国内初、世界でもニューヨーク、パリに次いで3番目となる東京大学生産技術研究所の分室が今夏、和歌山市加太に開設される。住民と各専門機関をつなぎ、まちづくりを進める駐在型研究拠点で、4月16日に川添善行准教授研究室の青木佳子特任助教が地区で暮らし始めた。青木特任助教は「建物や景観を生かしたまちづくりを実践する場。空き家の増加や人口流出といった同じ悩みを抱える地域の再生モデルをつくりたい」と話している。

 建築設計学が専門の川添准教授。2015年に手がけた長崎県のハウステンボスにある「変なホテル」は、ほとんどの業務をロボットが行い、「世界初のロボットホテル」としてギネスに登録されている。日本古来の建築思想をデザインに取り入れ、建築と人のかかわりをテーマに研究する。

 加太との出合いは14年。経済産業省の補助を受け、同地区で研究を始めたのがきっかけだ。和歌山県、市の支援を受け、学生や研究者が井戸の分布や細い路地の特徴といった町の成り立ち、観光客と住民が利用する道の違いなどを調べた。学生と住民がワークショップで意見を交わし、共同で海の家を立ち上げて信頼関係を築いてきた。「同じような海辺の集落は全国にありますが、加太は熱意のある人が多い。お金で施設を整備できても人の心に火をつけるのは難しい」と川添准教授。

 今回、東大は市と連携協定を結び、分室を開設。現地駐在型拠点で地域課題の解決策を探る新たな手法を確立するのが狙いで、生活者目線で地域を詳しく分析し、住民と地域再生を目指す。

 拠点は、築100年以上の古民家をリノベーション。漁具を入れていた蔵を青木特任助教が常駐する分室、道を挟んだ民家の離れをカフェや交流スペースにする。現在は改装に向けた設計や、住民とのネットワークづくりを進めており、今後、建築学をはじめ経済学や社会学といった研究所の専門家、学生を招き、特産品のデザインや空き家の利活用の検討などに乗り出す。地元企業や住民と新たな事業の企画立案、コーディネートを行い、学校で出前授業も行う。

 青木特任助教は「暮らしていると、観光客が多い土日に店が閉まり、高齢者が買い物に困るなど、様々な課題が見えます。まちづくりをイベント的に行うのではなく、同じ住民として地域の未来を描く」と意気込む。

 加太地区は65歳以上の割合が44・8%と市内3位、空き家も200軒で同8位と多く、拠点開設に寄せる期待は大きい。加太観光協会青年部の稲野雅則部長は「町の情緒を残しつつ、都会に住む若者の感性と研究者の専門性を組み合わせた、新たな暮らしと生業を模索する」、連合自治会の尾家賢司会長は「拠点を軸に、まちづくりの取り組みを住民に広める。これまでにない活動で楽しみ」と胸をふくらませる。

 川添准教授は「〝よそ者〟と地元の人とのつながりを深める拠点。趣のある古民家や歴史街道の骨格が街に残されていて、こうした地域の価値を見つけ、磨いて移住者や観光客増加につなげる」としている。

写真=拠点となる古民家前で談笑する青木特任助教(右)

(ニュース和歌山/2018年4月28日更新)