明治から昭和にかけ活躍した和歌山市出身のマジシャン、金沢天耕(写真上)の半生を描いた舞台「酔筆奇術偏狂記」が9月28日㊏、和歌山市民会館小ホールで上演される。天耕の孫で、大阪の劇団で活躍する劇作家、寿美さん(同下)が脚本を手がけ、「演劇街道きのくにプロジェクト」と題し、和歌山と大阪で出演者を募集。寿美さんは「両府県の人が一緒に一つの舞台をつくり上げます。知られてこなかった文化の国、和歌山の表情に光を当て、文化都市・和歌山の魅力を再発見してほしい」と望む。

祖父の半生 孫が舞台化〜公演に向け出演者募る

 染物店主だった天耕は1931年、商店街の名士に呼びかけ、全国で2番目となる手品愛好会、和歌山アマチュアマジシャンズクラブ(現和歌山マジシャンズクラブ)をぶらくり丁で結成。海外公演や後進の育成、技の一つ、四つ玉について自らの研究をまとめた『四つ玉新技法』を出版するなど、奇術文化振興に貢献した。

 同クラブの岩橋延直前会長は「60年前に天耕さんに出会い、マジック以外の多くのことも教わった。他府県から天耕さんを頼って学びに来る子もおり、マジックに命をかけていた」と懐かしむ。

 寿美さんは天耕の半生を脚本化し、座付き作家を務める劇団レトルト内閣が2014年に大阪で上演した。「和歌山でも」との思いを持つ中、大阪で舞台に立つ紀の川市出身の俳優、坂口勝紀さんと出会い、同クラブなどに協力を呼びかけ、プロジェクトを立ち上げた。

 高野山を訪れた天耕とその妻。日本中を酔わせ、「魔術の女王」と呼ばれた松旭斎天勝の墓にまいり、自ら出版した本を取り出した。天耕の頭の中は、師と仰ぐ天勝の芸が走馬燈のように過ぎた。明治、大正、昭和の奇術界を駆け抜けた天勝と、和歌山で奇術に生涯を捧げた天耕。妻は天勝と一度だけ話した時のことを思い出す──。

 天耕役を務める坂口さんは「故郷の文化を盛り上げる取り組みに参加できてうれしい。天耕さんになりきるため、四つ玉を始めマジックを覚えます」。寿美さんは「14年の内容より、大空襲の描写などの歴史的側面を強調したい。公演を一過性のものにせず、地元和歌山の演劇文化に根付かせられれば」と話している。

 出演者を募集中。16~36歳で経験不問。4月14日㊐に海南市(3月21日締め切り)、5月6日㊊に和歌山市(4月21日締め切り)でオーディション。公演まで両府県で14回ワークショップなどを行う。3万円。希望者はジャパントータルエンターテインメントHPから。金沢さん(embroideron@gmail.com)。

(ニュース和歌山/2019年3月2日更新)