日常生活で医療行為を必要とする医療的ケア児が、校区内の普通学校へ通うための支援が整いつつある。医療技術の進歩を背景に、医療的ケア児が増えているためで、2016年の児童福祉法改正を機に、各市町村はケア児への適切な措置が努力義務となった。和歌山県内では海南市の男児が看護師の付き添いを受け、近所の小学校に通うほか、県は昨年、ケア児に関する専門知識を持った支援員の養成を開始。地域での受け皿確保を図る。

看護師付き添い普通学校へ〜法改正受け自治体が支援

 医療的ケア児はたんの吸引、胃や腸にチューブを通して栄養を注入するなどの医療行為を必要とする0〜19歳で、厚生労働省によると17年に、全国で1万8000人。新生児医療が進み、救える命が増えたため、10年前に比べ1・8倍に増えている。

 県内にも100人おり、多くが特別支援学校に通い、学校に勤務する看護師のケアを受ける。普通学校へ通うケア児は昨年度で9人。看護師がいない学校を選択した場合、教員は医療行為を行えないため、家族が付き添う必要があり、支援学校以外への就学はハードルが高い。
 
 ケア児の教育機会の確保、家族の負担軽減のため、国は16年に児童福祉法を改正。地方自治体は保健・医療・福祉に加え、教育面でも支援が求められている。

 これを受け、海南市は16年、普通学校に通い始めたケアが必要な小学生の男児に、非常勤講師として看護師を採用。男児は1日1回、昼休憩にたんの吸引を受けている。看護師は「衛生面に配慮し、処置を行っている。ご家族と情報交換しながらサポートを続けていきたい」と力を込める。

 男児については、年度初めに全校集会で校長が注意事項を説明。校外学習は家族の付き添いが必須で、修学旅行には看護師の付き添いが決まっていないため、引き続き検討を重ねる。

 紀の川市では今年4月、生まれつき歩行や排せつに障害がある小学生の女児が、訪問看護師の派遣により、家族の付き添いなしでの通学が実現。2年前から人工的に排尿を行う導尿のために、1日2回、母親が学校に出向いていたが、負担が大きく、家族が昨秋、市教委に看護師の派遣を要望した。

 女児は「楽しく話せる看護師さんなので、うれしい」。母親は「ケア児であっても選択肢は支援学校だけではない。本人が望む教育を受け、家族以外の人に支援してもらうことは、自立の一歩」と話す。修学旅行の同行も決まっている。

 また、県は昨年12月から、専門のコーディネーターの養成研修を実施。ケア児に関する知識を持った相談支援員、保健師、訪問看護師らが支援計画などを学び、20年までに県内8圏域に1人ずつの確保を目指す。学校や障害児通所施設に配置し、利用できる医療や福祉制度を本人や家族に紹介する。県障害福祉課の小泉朋美さんは「どの地域にいても同じサービスを受けられるように役割を担ってほしい」と期待する。

 全国重症心身障害児(者)を守る会県支部長の髙垣千恵さんは「ケア児の数はこれから増えてくる。存在が認知され、本人や家族が納得した教育を受けられる世の中になれば」と願っている。

写真=看護師がたんの吸引を昼休憩に行う

(ニュース和歌山/2019年5月18日更新)