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 9月に迫ったスポーツの祭典、紀の国わかやま国体。出場、そして上位入賞が期待される選手たちにとって、どんな舞台だろうか。

 ロンドン五輪カヌー競技で8位に入った阪本直也選手(26、県教委)は〝感謝の気持ちを伝える舞台〟と表現。昨年、競泳男子1500㍍自由形で日本記録を出した山本耕平選手(23、ミズノ)も「指導してくれた方、応援してくれる方たちへの〝恩返しの舞台〟」と語る。

 昨年秋の長崎国体フェンシング少年女子団体優勝メンバーの西岡真穂選手(和歌山北高3年)も同じく〝恩返しの舞台〟を挙げる。「来年春に退職される市川真知子監督に贈る大会に」。思いは東莉央選手(同1年)も同じ。「笑って先生を見送れるよう、〝笑顔の舞台〟にしたい」。一方、東晟良(せら)選手(紀之川中3年)は「子どもたちに〝夢を与えられる舞台〟になれば」と笑顔を見せる。

 和歌山工業高校1年から国体4連覇中で、今年5連覇がかかるレスリング、奥井眞生(まお)選手(19、国士舘大1年)も「〝地元にいる次の世代に見せられる舞台〟。あんな選手になりたいと思ってもらえる大会が目標です」と描く。

 和歌山信愛高校時代から国体出場20回を誇るなぎなたの山本千代選手(37、県教委)は〝勇気と感動を届ける舞台〟。「必死に戦う姿を通し、勇気や元気を感じてほしい」

 それぞれの思い、それぞれの舞台──。大会は9月26日〜10月6日(水泳、体操、セーリングは9月6日〜13日)に開かれる。

地元で輝け 勝利の笑顔

悔しさを強さに

競泳1500㍍日本記録保持者  山本耕平選手

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 競泳日本代表男子長距離種目期待の星。昨年6月のジャパンオープン1500㍍自由形では前半から攻めの泳ぎを見せ、日本新記録となる14分54秒80をたたき出した。

 海南高校時代までは全国大会で決勝を泳ぐ8人に残ったことはなかった。才能が開花したのは鹿児島県の鹿屋体育大学に入ってすぐ。練習回数をそれまでの週6回から週10回に増やす一方、休養日を2日設けた。入学から半年後の日本学生選手権で自己記録を一気に30秒以上縮め、初めて日本一になった。

 2012年、ロンドン五輪代表選考会を兼ねた日本選手権も同種目で優勝。しかし、笑顔はなかった。タイムは15分1秒13。派遣標準記録にわずか0秒55届かなかった。「初めて代表入りをねらってダメだった経験、落ち込んだ状態から乗り越える経験…。大きな経験だった。今はちょっとやそっとのことで下を向かなくなりましたよ」

 悔しさを強さに変えた。昨年は日本記録を樹立し、9月のアジア大会では銀メダルを獲得。世界記録保持者の孫楊選手(中国)のすぐ隣で泳いだことも財産となった。「水に滑らせるように腕をかく技術はすごい。今はまだ実力差があるが、埋められるように努力を重ねたい」と語る。

 国体には得意とする1500㍍自由形はなく、最長の400㍍自由形での活躍が期待される。その向こうに見据えるのは五輪。「決勝の舞台で戦い、そして表彰台に上がれれば最高ですね」

成長確認できる場

レスリングで5連覇に挑む  奥井眞生選手

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 和歌山工業高校時代の3年間で、国体3連覇を含む全国大会8冠を達成。大きな実績を引っさげ、昨春、レスリングの名門、国士舘大学へ進学すると、8月の全日本学生選手権(インカレ)ではフリースタイル、グレコローマンとも頂点に立った。1年生が両方を制するのは、ソウル五輪金メダリストの小林孝至さん以来、32年ぶり2人目の快挙だ。

 毎日、50人近い部員と汗を流す充実の日々。「自信のあったパワーだけでなく、技術面で成長を感じますね」。インカレのほか、大きかったと語るのは、9月のアジア大会。選手ではなく、出場する大学の先輩の練習相手としての同行だったが、現役世界チャンピオンの試合を見る機会を得た。「感動した。自分もあの強さに到達したいと思いました」。目指すべきレベルを目に焼き付けた。

 もう一つは11月のブラジルカップ。出場したフリースタイル74㌔級の決勝で、70㌔級のロシア人世界王者と対戦した。最終的には2─12で敗れるも、第1ピリオドは2─2と互角の戦いを演じた。「手足が長く、もつれた状態で強さを発揮する外国人選手の特徴を肌で感じました」

 昨秋の長崎国体も優勝し、今年は5連覇がかかる。「高校で初めて取ったタイトルが国体で、飛躍させてくれた大事な大会。毎年、自分の成長を確認できる場なんです」。目指す来年のリオデジャネイロ五輪に向け、地元国体でどんな手応えを実感できるか──。

写真=リオ出場を目指す19歳

チャレンジ続け20回

なぎなた  山本千代選手

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 小学2年の息子を持つママさん選手。2011年には日本代表として世界選手権団体優勝に貢献した。1993年以降、妊娠、出産を経験した2年間以外、毎年挑んできた国体の出場は20回を数える。

 優勝1回、準優勝が4回。3人による団体戦で、防具を着けて打ち合う「試合」で優勝した2001年の宮城国体は「強豪・熊本の3連覇を止めたこともあり、印象深いですね」。入賞できなかった13年の東京国体で、小学1年生だった息子から「また頑張ればいいよ」と言葉をもらったのも思い出の一つだ。
昨秋の長崎国体は「試合」と、2人1組で形の優劣を競う「演技」の両種目で2位に。今年掲げる両種目優勝へ順調に来ている。「引退は考えたことがない。なぎなたが年々楽しくって」と笑顔。「様々な大会がある中で、『和歌山のために』との思いでのぞめるのが国体。チャレンジし続ける大切さを伝えられれば」

〝もっと速く〟に自信

カヌー  阪本直也選手

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 パドルで水をつかむように、一漕ぎごとにぐんぐん前へ。パワーのある欧米選手が強いカヌーカナディアンシングル200㍍、2012年のロンドン五輪では日本人として28年ぶりの決勝進出を果たした。昨年5月にはワールドカップで3位に。こちらは日本人男子初だ。

 神島高校に入り始めたカヌー。学校に近い文里湾で基礎から身につけた。ロンドン五輪を終え、13年秋から全身の筋力アップを図り、体は一回り大きくなった。「その成果が出たのがワールドカップ。もっと速くなれる手応えも感じました」。昨年9月のアジア大会も銀メダルと、国際舞台で結果を出し続ける。

 日本体育大学1年で初めて出た国体は、これまで200㍍、500㍍合わせ計8回、頂点に立った。あと2つ勝てば、優勝回数は2ケタに。「応援してくれる地元の方の前で、力の差を見せて勝ちたい」。パドルを握る手に、恩返しの思いを込める。

写真=ふるさと田辺の文里湾で汗を流す

感動の涙 もう一度

フェンシング  少年女子3選手

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 相手の攻撃をかわすやいなや、東莉央選手の鋭い攻撃が決まる。次の瞬間、ベンチを飛び出した西岡真穂選手と東晟良選手、そして市川真知子監督、4人の涙があふれ出た。昨秋の長崎国体フェンシング少年女子団体、優勝候補に挙げられた重圧とも戦いながら、頂点まで駆け上がった。西岡選手は「一人が負けても他の2人がカバーする。チーム力で勝てました」と胸を張る。

 和歌山北高校の西岡選手と莉央選手は昨年、インターハイ団体戦でも優勝。莉央選手の妹、紀之川中学3年の晟良選手は和北ジュニアの全国少年大会団体戦5連覇に貢献と、昨年の少年女子チームは実力者がそろった。今年は西岡選手が成年の部へ。2012年、13年と国体を制した成年女子県チームの選手層は厚く、「まずはメンバーに入ること」と見据える。

 一方、莉央、晟良姉妹には少年女子連覇がかかる。莉央選手は「来年、3連覇するためにも、今年は地元で絶対に優勝」と力強い。晟良選手は「何年か後、『あの国体はすごかった』と思い返せるような、歴史に残る大会に」。今年も3人の感動の涙が見られるか──。

写真=左から莉央選手、西岡選手、晟良選手

(ニュース和歌山2015年1月3日号掲載)