「シェアハウス」や「カーシェア」など、近年広まりつつある〝シェアリング〟をご存知? 家や店舗などの空間や物、知識などを共有する「シェア」が全国で注目される中、和歌山でも取り組みを始める店や団体が増えている。現場をのぞいた。

庭にパン屋3店、カフェの本棚…  物や場所共有にメリット

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 観光客が多い紀三井寺近くの歯科医院の裏庭に昨年オープンしたのは、3つのパン店が集まり、オープンテラスの客席を共有する「庭のパン屋さん」。専門性を持たせ、焼きパン店を中尾友美さん、揚げパン店を武野純子さん、ベーグル店を末永美緒子さんが営む。

 元々は1店だったが、中尾さんと末永さんが庭の中で新たに店を構え、昨年9月に3店体制となった。営業時間はバラバラで、3店同時にオープンするのは金曜日のみ(2月中は揚げパン店は休業)。中尾さんは「水、日曜以外、どれかの店は開いているので、せっかく来てくれたお客様をがっかりさせずにすむ。『フリーマーケットやバザーみたいでわくわくする』と言ってもらえます」と笑顔を見せる。

 パン好きが高じ、家事と子育てのかたわら店を営む末永さんは、週2日、午前10時~午後2時のみの営業。「普通は週2日、4時間だけの店なんてできない。自分一人ではとても店は持てなかったです」と話す。

 同じ業態の店同士で場所を共有することで開業準備がスムーズに進み、アドバイスや互いの手伝いができる、それぞれの専門性が高められるなどメリットは多い。客にとっても、多様な味が楽しめるのはうれしいところだ。庭のパン屋さん(073・444・6555)。

写真上=歯科医院の裏庭に共同で出店する「庭のパン屋さん」

 一方、和歌山電鉄貴志川線田中口駅近くのラウンドポートは「カフェ&ブックシェアリングの店」。本棚には新旧まじえたおすすめの1000冊ほどがずらりと並ぶ。希望者に無料で1ヵ月貸し出しており、夜間や定休日用に返却ポストを用意する。

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 「自分にとって大事な本でも、読み終わったらそれまでというのがもったいない。もう一度本を生き返らせよう」との願いを込め、マスターの日野貴夫さん(写真右〈携帯では上〉)が2012年の開店時に始めた。

 日野さんが読み終えた本のほか、客や友人が寄贈したミステリー、エッセー、歴史物と幅広いジャンルがそろう。特に日野さんがおすすめの本には、背表紙に赤いシールを付けた。

 20~70代の利用者がおり、それぞれニックネームで貸し出し帳に記入する。「これ読みたかった」「あの本まだない?」と本を通じた交流が生まれ、日野さんは「本好きな人に来てもらい、情報交換をしてもらえれば。他の店でもブックシェアの取り組みが広まればいいなと思います」とほほ笑む。同店(同499・8575)。

 このほか、ぶらくり丁では調理場や道具を共用するシェアキッチンや、オフィスを共有するコワーキングスペースが開設された。今後もいっそう幅広い分野で「シェア」は増えていきそうだ。

子育てサポートにも一役

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 場所や物だけでなく、子育て分野でもシェアの概念は広まりつつある。同じ保育所や学校に通う顔見知りの母親同士が、送迎や託児を支え合うインターネットサービス「子育てシェア」を進める横浜市のAsMamaは、昨年12月に和歌山市で初の説明会を開き、母親約30人が参加した。同社スタッフで岩出市在住の生川綾乃さんは「ご近所付き合いの現代版といった感じ。子育てを頼り合うことは悪いことじゃないと感じてもらいたい」と期待する。

 あらかじめプロフィールを登録し、同様に登録した知人を選んでパソコンやスマートフォンから送迎や預かりなどの依頼を一斉送信し、可能な人から返信を受ける仕組み。祖父母が近隣にいない、共働き世帯が多いなどの理由で都市圏を中心に利用者を伸ばしており、和歌山での登録者は40人程度に留まるが、今後さらなる認知度向上を目指す。詳細はAsMamaのHP。

 また、県内の託児や学童保育を行う5団体は、互いをサポートしあう「和歌山シェアリンググループ」を結成。利用者が満員になった場合などに、他の団体を紹介する。同市で学童保育アルカンジュママーンを開く阪田由美子さんは「現状や子どもたちのことなど情報交換ができ、困っているお母さんたちをよりサポートできるようになりました」と話している。

(ニュース和歌山2015年2月14日号掲載)