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 今秋開かれる紀の国わかやま国体・大会に合わせ、音楽や絵画など芸術を披露する文化プログラムが開催される。かつてオリンピックや国体に存在した「芸術競技」の名残で、開催地の歴史、文化、人物に根ざした発表や、作品展が目白押し。既に4月1日に県立博物館などで始まった企画展を皮切りに10月31日(土)まで、307のプログラムが企画されており、文化団体やNPOはそれぞれの専門性を生かした視点から、和歌山の魅力をより深く掘り下げ発信する。

 9月26日(土)に開会式が行われる国体は、全国から選手ら2万2000人が来県する。国体の開催要項には、スポーツの普及と体力向上に加え、「地域文化の発展に寄与する」と明記され、毎年、各地域にちなんだ文化プログラムが実施される。わかやま国体では、恒例の催しをプログラムに数えたものも多いが、国体開催に合わせ、民間文化団体による新たな取り組みが充実している。

先人の仕事に注目

 県建築士会和歌山市支部は、現在の県庁本館や和歌山城再建に携わった建築技師、松田茂樹さん(1895~1991)の仕事に注目した展示会を計画。7月1日(水)~10月31日に同市卜半町の建築士会館で常設展、JR和歌山駅と南海和歌山市駅で巡回展を開く。

 紀の川市出身の松田さんは、1921年に営繕技師として県に採用された。関東大震災を機に、地震や火災に負けない建築構造の研究を開始。県庁本館の改築計画や、戦後の和歌山城再建、旧県立図書館、串本のエルトゥールル号記念碑などを手がけ、晩年は教壇に立ち後進の育成に努めた。

 今展では、現代の耐震基準を満たす松田さんの建築技術と研究姿勢、今も活用されている建物を紹介し、その先見性や和歌山の建築界に尽くした功績をたどるほか、松田さんゆかりの建物を巡るスタンプラリーも行う。

 「国体で多くの人が県外から訪れます。県内の代表的な建築物の歴史とそれを手がけた紀州人の仕事を知ってもらおうと考えました。地元の人も和歌山に誇りを持ってもらえる内容です」と日下友希支部長。

外国人陶芸家招く

 一方、近代建築の活用や芸術家を支援するNPO「銀聲舎(ぎんせいしゃ)」は2012年から国体に向け、準備を進めてきた。6月から9月末までスペインから陶芸家を招き、県内作家との交流や作品展を開く「ミシオン・セラミカ」を行う。

 同国から訪れる陶芸家は約20人。数人ずつ受け入れ、平日は県内の自然や歴史を感じられる場所、普段の生活が感じられる町中を案内し、〝和歌山らしさ〟がテーマの陶芸作品の製作に挑んでもらう。

 7月19日(日)からは毎週土日に紀美野町小畑のギャラリーハチで展示会を開催。同イベントディレクターで信愛女子短期大学講師の井澤正憲さんをはじめとする県内の現代陶芸作家とスペイン人作家のトークイベント、子ども向けのワークショップも行う。また、県内作家の作品を和歌山市内の飲食店や美容室に飾り、和歌山の陶芸文化に触れる機会を設ける。

 銀聲舎の松尾寛さんは「スペイン人が肌で感じた〝和歌山〟を陶芸を通じて紹介します。陶器の一大産地ではない和歌山だからこそ、自由な発想の作品が生まれる可能性を秘めている。両国の交流を通じ、和歌山独自の現代陶芸文化の発祥となる取り組みにしたい」と期待する。

 このほか、地元音楽愛好家らでつくる前夜祭実行委は国体直前の9月24日(木)、25日(金)に和歌山の自然や歴史を題材にした音楽を奏でるコンサートを企画。和歌山市満屋のギャラリーアクアは9月22日(火)~10月4日(日)に和歌山の海や川で撮影した水中写真展を開くなど、音楽、写真、絵画、舞踊、演劇と幅広いジャンルの催しがある。

 プログラムをまとめる県総務企画課は「選手がスポーツ競技で能力を発揮するのと同じように、文化活動に打ちこむ人たちもそれぞれの技を発表する、いわばスポーツを含めた〝文化の祭典〟が国体です。様々な角度から和歌山の魅力に深く触れ、改めて地元の良さを感じてもらい、和歌山の文化を全国に発信したい」と描いている。

 一覧を紹介したパンフレットは県内各地の文化施設や駅、宿泊施設で配布中。HP「わかやま国体 文化プログラム」でも閲覧可。同課(073・441・2955)。

写真=「国体はスポーツだけではありません」と県職員

国体に合わせて開かれる催し

・日本ユネスコ運動全国大会…6月6日(土)と7日(日)、和歌山市民会館。松本零士さんの講演と、捕鯨など伝統文化に関する展示や意見交換会。和歌山ユネスコ協会(073・435・1138)。

・講演会「海鼠(なまこ)壁の武家屋敷・旧和歌山藩士大村孫兵衛長屋門」…7月5日(日)午後2時、県立博物館。県建築士会和歌山市支部(073・423・2562)。

・講演会「紀州の忍術で社会を明るく〜『正忍記』から学ぶ現代社会を生きる知恵」…7月12日(日)午後2時、県立博物館。和歌山市BBS会(073・436・2501)。

・現代アート展「和歌山サローネ」…9月13日(日)〜10月12日(月)、和歌山市

・海南市ほか。 ・表千家同門会県支部設立60周年記念 東照宮献茶式…10月25日(日)、紀州東照宮と市民会館。同支部(073・446・3208)。

・演劇「紀ノ国の女王伝説・現代に蘇る名草戸畔」…10月10日(土)、アートキューブ。劇団ZERO(gekidan-zero@iris.eonet.ne.jp)。

(ニュース和歌山2015年5月9日号掲載)